トラウマは突然に　４

メデューサの背後に、モアイ男が座ったのが見えた

「これ、食っちゃっていい？」
イースターは手を付けられていない刺身の盛り合わせ
それを食いに移動してきたようだけど
もしかしたら、僕を助けに来てくれたのかもしれない
それか、単に興味本位か？

中学に入学した時、おばあちゃんがお祝いをくれた
シャープペンとボールペン赤・黒・青がついていて回すと切り替わるという、よくある文房具なんだけど
それに、デジタルの時計が表示されるという、ちょっと珍しいものだった
おばあちゃんに「ありがとう！大切にするよ！」と、大事に使っていたんだけど
その年におばあちゃんは急に天国に逝ってしまった

だからおばあちゃんからもらった最後のプレゼント

それを不良グループに奪われちゃって
必死で「お願い！返して！」と懇願したけど、「逆らいやがって生意気だなこいつ」とフルボッコにされて
結局返してもらえなかった・・・

それを見てたイースターが、体育の時間が終わってダッシュで教室に戻り、不良の机からボールペンを取り返し、後日こっそり僕に返してくれた
不良はボールペンのことなんてすぐ忘れてやがった
イースターは「大切なもんなんだろ？そんなもん持ってくんなよ」
クラスメイト全員が、不良グループにビビって僕の敵なのかと思っていた

それなのに、一人だけでも味方がいた・・
そう思うと嬉しくて涙が出そうになった

イースターは誰とも群れることもなく、不良グループとも敵対するわけでもなく
特に目立ちもしなかったけど、僕にとってはヒーローだった

イースターが裏ヒーローだとしたら、表のヒーローもいた
サッカー部の主将、拓海だった

教室で僕に対して執拗に嫌がらせをする不良グループ
「ケン坊！寝ぐせついてるから、今後寝ぐせがつかないように前髪燃やしてやるよｗｗ」ってライター近づけてくるまどかの髪の毛を後ろから思いっきり掴み
「お前の髪も、うっとおしそうだから全部引っこ抜いてやろうか？」

「痛ってぇなテメー！！」いきり立つまどかに拓海は
「女らしくないことやってるお前を女とは思わねーことにすっから！覚悟しとけよまどか！」
そして不良グループに
「お前ら、くだらねぇことしてんじゃねーよ！文句あんなら俺んとこ来いよ！」って睨んだ

やめて！！助けてくれたつもりだろうけど、仕返しされんのは結局僕なんだぞ！！
すると拓海が
「ケン坊！お前も少しはやり返せよ！こいつら集団でかかってきてる卑怯者だからルールなんていらねぇんだよ・・椅子でも机でも武器使ってもいいから何でもいいから思いっきりやってやれよ！嫌なら嫌だっていう意思を見せろ！」

な・・なんで被害者の僕が怒られなきゃいけないんだよ・・悪いのはこいつらじゃないか！

それから僕への嫌がらせは少し減ったけど、まどか達がサッカー部の部室を爆破するという事件で警察沙汰になったりして、拓海と不良グループは直接ぶつからないけど、冷戦は続いた

１０年経って僕はまどかと対峙している

でも、今まどかはたった一人
まどかの背後にはイースターがいて、あっちには拓海もいる
少なくとも、命を奪われることは無い・・はず・・・
そう言い聞かせ、勇気を振り絞ることにした

「嫌なことはイヤって意思表示を・・・」
１０年前に言われた拓海の言葉を思い出し
まどかがどんなひどい要求をしてきても
ＮＯ！と言うんだ！

イースターがまどかの後ろにいる・・・それだけで勇気が出た