165件のひとこと日記があります。
2015/05/31 18:30
いざ、さらば
「人生は旅だ」
卒業式が終わり、最後の学活の時間に先生は言った。
「お前達一人一人に人生と云う旅があり、その旅路で偶然出会った」
いつものように黒板を背にし、教卓に手を添えて先生は続ける。
「俺も、旅の途中でお前たちと出会い、H組という宿り木で二ヶ年を共に過ごした」
先生は、足元にある大きな段ボール箱の中の一つから、A4サイズの本を取り出す。
「二年間という時間は、長い人生では僅かな時間かも知れないが、如何に充実した時間であった事か。この卒業文集には、その充実した時間が入っている。その分、厚い」
そう言って、出席を取るように名前を呼んだ。
「愛地守」
「はい」
愛地は、座ったままに返事をした。
「ここへ来い」
先生は教卓の前を指し示し、愛地は無言で従った。
「お前が学級委員長で苦労した事は、今後役に立つ。経験を生かせ」
「はい」
「卒業おめでとう」
そう言って、先生は卒業文集を愛地に手渡した。
「阿部大輔」
「はい」
阿部は立って返事をした。
「ここへ」
「はい」
阿部が教卓前に来る間に、先生は段ボール箱から文集を取り出した。
「我が校の野球部は層が厚く、お前は三年間補欠だった。だが、退部したり諦めたりせず、お前は三年間野球部で努力した」
「はい」
「その根性と頑固さは宝だ。巧く操作して、男を磨け」
「はい」
「卒業おめでとう」
先生は阿部に文集を手渡した。
「池田純一郎」
「はい」
卒業証書を手渡すように、一人一人名前を呼び上げては、言葉を添えて卒業文集を手渡す。
そして、出席番号が最後の渡辺なほ子が着席したのを見計らって、先生は言った。
「同じ顔ぶれの同じクラスを二年間受け持ったのは、初めてで思い出深い。俺はきっと、お前らの事を忘れないだろう」
約二年前に出会ったまんまの顔ぶれは、静かに先生の言葉に耳を傾けた。舌を引っこ抜かれたかのように、誰一人として言葉を発しようとしない。
「俺も旅の途中だ、いずれはこの宿り木を旅立つ。この先、どこへ行くか決めてはいないが、ここからは遠く離れるつもりだ。縁がなければこれっきり、縁があればまた会える。もし会える事があったならば、酒を酌み交わせる事を望む」
どこからか洟をすする音が上がり、次第に数が増えて行った。
先生は暫くの間、教卓から居並ぶ生徒を眺め、そして、静かに叱るような声で言った。
「日直」
「起立!」
日直の真々田が弾かれたように立ち、それにならって、生徒達は一斉に立ち上がった。
「気を付け!」
真々田の声が裏返る。
「それではまた、どこかで会おう。卒業おめでとう」
一言一言を噛み締めるようにハッキリと言い、そして、きっちりと頭を垂れた。
「礼!」
これでもかという大きな声で、真々田は叫ぶ。
「ありがとうございました」
言い合わせた訳でもないのに声が揃い、生徒達全員は、各々の想いで深々と礼を返した。
「さらば!」
短くそれだけを言うと、言葉を残すように、颯爽と教室を出て行った。
「直れ」
真々田の声は震え、顔を上げた生徒達の頬は濡れていた。
一、
仰げば尊し、わが師の恩。
教の庭にも、はやいくとせ。
おもえばいと疾し、このとし月。
今こそわかれめ、いざさらば。
二、
互いにむつみし、日ごろの恩。
わかるる後にも、やよわするな。
身をたて名をあげ、やよはげめよ。
今こそわかれめ、いざさらば。
三、
朝ゆうなれにし、まなびの窓。
ほたるのともし火、つむ白雪。
わするるまぞなき、ゆくとし月。
今こそわかれめ、いざさらば。
※頂いたコメントには、いつの日かお返事いたします。
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りゅうあさん
結依ちゃん>ありがたいなぁ、そういう言葉。
素直に嬉しいよ。
ありがた嬉しい。
くっつけたら、あんまり喜んでないような響きになる。 -
りゅうあさん
みる☆ちゃん>ぐりぐりって、アバターの事だと理解するまでに、ちょっと時間が必要だったよ。
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結依さん
早くアップしないかな〜(〃^-^〃)♪
ラーメン食べ歩記
待ってるからね
マタネ〜
ε=ε=┏(〃^O^)┛ -
みる☆さん
でも…
なんか暗いのヤダな…
休んでる時グリグリで、活動中はもう一つのにしたら?(^ー^) -
りゅうあさん
みる☆ちゃん>お店とかも休業中は真っ暗にするんで、そんな感じにしてみた。
辞めるんじゃなくて、休むだけよ。 -
りゅうあさん
結依ちゃん>初恋の人、幸せになってると良いね。
まあ、退会はしないので、ROM専になるっつう感じかな。
たまに日記をアップする事もあるから、その時はよろしくね。 -
りゅうあさん
星矢☆彡くん>やった、ウルッとさせた。
なんか、勝った気がする。
わーい。
寂しくなったら、オレblog【今だ!フランス落とし】においでくださいまし。
見事に過疎ってますが。
http://blog.livedoor.jp/ryua2013/ -
りゅうあさん
まさたんさん>『読んでると その風景が ハッキリ浮かぶ』だなんて、あら、やだ、嬉しいじゃないのよ。もぉー。
見える小説っていうのは、やはり物書きにとって目指すべき場所なので、素直に嬉しいです。
や、まぁ、物書きじゃないですけどもね。 -
みる☆さん
真っ黒になってるよ…
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みる☆さん
だからなんだ…。