95件のひとこと日記があります。
2015/08/12 16:19
浅草の詐欺師 中編
本は思っていた以上に薄っぺらかった記憶がある。
本というよりは小冊子に分類されるべき代物であり、中身は10ページ程度であった気がする。
しかし、その時はものすごい物を手に入れたと思い、足早にウィンズへ戻った。
早速出目を調べて午後一のレースを購入するも結果は外れ。
次のレースも外れるという惨憺たる結果だった。
的中するものだと思い大きく賭けていたので、手持ちの資金が早々と底をついた。
「だまされたのか?」ふと疑問が湧いてくる。しかし、屋台のオヤジはメインに10万を賭けていた、ならばメインは当たるのではと思い直し、ひとまずウィンズを出てお金を降ろしに銀行に向かう。
その途中突然後ろから声をかけられた。
「ちょっといいかな、君はさっきあそこの屋台で本を買ってくれたでしょ?僕はねその本を書いた渡辺っていうんだ」
振り向くと黒いバックを肩にかけた色黒のオヤジが笑顔でこちらを見ていた。
「買ってくれてありがとね。でも、その様子だと外れたんだね。
それは少し昔の情報だから精度が低いんだよ、ごめんね。
今ちょっと時間あるかな、せっかく買ってもらったのに当てさせないで帰らすのも悪いからね、とっておきの情報があるんだ」
普段なら無視して帰っただろう。いや、普段ならそもそもこの怪しい8千円もする薄っぺらな本すら買ってはいない。
しかし、留学を2か月後に控えどうしてもお金が必要だった僕はあろうことかこの渡辺についていってしまった。
ガシャン、渡辺が自販機から飲み物を僕に手渡す。
「どこか静かな所に行こうか」
渡辺は僕を浅草寺の裏手に案内した。
人の少ない境内の一角に2人で腰を下ろす。
「そうだまだ名前を聞いてなかったね」
僕は名前を名乗った
「安心しな、オジサンは昔これをやってたんだから」
渡辺はそう言い、馬を追う動作をした。それが妙に様になっていて、そしてその色黒の腕の太さと筋肉に驚いた。
僕は勝手に調教助手だった人なのだと思い込んでしまった。
「ユタカオーちゃん、これを見て見な」
そう言うと渡辺は黒いバックからおもむろに手帳を取り出した。
黒い手帳が妙に記憶に残っている。
渡辺はパラパラとページをめくる。
するとあるページに僕は目を止めた。
そこには武豊や、当時有名だった女性ジョッキーの牧原等名だたるジョッキーの名前と携帯番号らしきものが記されていた。
「えっ、それは?」と質問すると。
「おっとっと、ここはあまり見せてはいけないんだ、個人の情報が載ってるからね」と渡辺は急いで手帳を閉じた。
「今見てもらってわかったとおもうけど、手帳に書いてあった人たちとはオジサンは昔からの知り合いなんだよ、これをやっていた時からね」とまた馬を追うしぐさをする。
「いまでもたまに祝勝会なんかにはよばれるんだよ。だから色々な情報が入ってくるんだ」
今だったら馬鹿を言うなと一笑にできるが、当時の僕はこの人はもしかしたらとんでもない人なのではと次第に思い込み始める。それだけ渡辺の言葉は僕の弱みを見透かすように上手かった。
「ユタカオーちゃんは何か夢がある?
僕は夢がある人の手助けをしているんだよ。あの本に書ききれなかった情報があるんだ、あの本は枠で買うだろ?オジサンはもっと情報をもってるからね、馬連で勝負できるんだよ。
今日の勝負レースだとだいたい10倍位かな、ユタカオーちゃんのお金を10倍にしてあげられるって事だよ、でもオジサンは夢をもっている人しか助けてあげないんだ。」
そういって渡辺は真剣な目で僕を見つめる。
僕は留学するのにお金がいる事、留学の先に描いた夢を渡辺に語った。
「よし、それだけの夢があるなら大丈夫だ」
渡辺は再び手帳を広げる。
そこには見知らぬ人の名前がびっしり書かれていた。
「この人はそこのうなぎ屋の亭主、この人はそこのきもの屋のご主人、みんな僕の馬券の情報で夢をつかんだ人達の名前だよ。
ユタカオーちゃんも今日夢をつかめるんだ、ここに名前を書いて」
僕は言われるがままに手帳に名前を書いた。
後で思うとこの手帳に書かれていた名前はみんな渡辺に騙された人達だったのではと思い至のだが、この時に知る由もない
後編につづく。
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絡まないよ!!
まだ出会ってないし、勝手にハードル上げないでよ(笑)
ワイドさんも渡辺に騙された経験有ですかね? -
ワイドボックスさん
経験上、まず渡辺って時点でうさんくさいと思った方がいいですよ。
最終回、どこで奥様が絡んでくるのか楽しみです。 -
コスモスさん、コメントありがとうございます。
コスモスさんも色々ありましたか。
僕は色々は人生の肥やしだと思う事にしてます。 -
お邪魔致します(*^^*)
つい、引き込まれてしまいます♪
競馬以外なら、私も、色々有りました(>_<) -
アメショーさん、ありがとうございます。
今振り返ると本当に怪しさプンプンのオヤジでしたが、
騙されている時は神のように感じました。
プロでしたよ。 -
アメショーさん
文章の上手さに脱帽(・_・;)
小説読んでるみたいです。しかし怪しさプンプンの色黒のオヤジー;
しかし・・・ぷぷぷ(^・^)コメント覧が可笑しくって(^◇^) -
ブラウンさんありがとうございます。
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読んでてマジで面白いですw
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ブラウン監督大魔王さんがいいね!と言っています。
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嫁との経緯は忘れました(笑)悔しかった事はこんなに鮮明に覚えているのに不思議です。
明日は最終回。
僕がどうなるか、ご期待ください。(オチは分かってると思いますが)