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2017/07/30 09:10
諏訪三七氏とパスポート(その2)
(前回より続く)
1976年当時、ブック週報には「日本のクラシック・準クラシック勝馬の牝系」という読物が不定期掲載されていた。76年時点の日本の8大競走の勝馬の牝系を輸入基礎繁殖牝馬ごとに解説する内容で、筆者は諏訪三七氏だった。
ブルース・ロウのファミリーナンバーの祖先とされる牝馬の名前(セドバリーロイヤルメア、オールドウッドコックメアなど)を見出しにして、そこから輸入された基礎牝馬への血統の流れが示され、日本での主な活躍馬の紹介に移るという形式だった。
読み始めた時にはすでに半分以上の牝系が紹介済だったが、今も繁栄している星旗系やクレイグダーロッチ系等に加え、最後のほうではジェネラルスタッドブックに遡れないアメリカンファミリー、コロニアルファミリーや、トロッターを母系先祖に持ち、「サラ系」ですらない「軽半血種」でありながら第1回菊花賞を勝ったテツモンの母系も紹介された。
私はこれを毎回楽しみに読んでいた。まず牝系を整理分類する「ファミリーナンバー」という概念をこの連載で知った。大レース勝馬の牝系を輸入馬から時系列でたどる展開はまさに大河小説。見るものすべてが新鮮だった。しかし何よりも、読み物として面白かった。ですます調の優しい語り口はサラブレッドへの愛情にあふれていた。私が現役時代を知らず、大レースにも勝っていない「パスポート」のことを覚えているのも諏訪氏の解説のおかげである。
「日本のクラシック・準クラシック勝馬の牝系」完結後、諏訪氏は歴代ダービー馬の牝系を解説した「ダービー馬のルーツを探る」を執筆。続いて「ニッポン女傑伝」に取り掛かったが連載中に死去した。
諏訪三七氏について私は全く知識がない。名前を何と読むのかすら知らない。わかっているのは競馬ブックの社員だったことくらいである。諏訪氏の血統に関する書物が出版されたという話は聞かないし、検索しても何も出てこない。当時諏訪氏の書く文章に感銘を受けた読者は決して少なくないと思うのだが…。
「ブック」に掲載された諏訪氏の読み物は切り取って保管しているはずなのだが押し入れを漁ってみても見つからない。保管といってもホッチキスで留めて紙袋にバサッと入れただけなので、ひょっとしてゴミと間違えて捨てられてしまったのかもしれない(当時私は高校〜大学生で、散らかし放題の部屋を見かねて時々母親がゴミ出しをしていた)。
諏訪三七氏は今も謎の人のままだが、私にとって山野浩一氏と並ぶ「血統の先生」であることには変わりがない。
※もしこれをお読みの方で諏訪氏についてご存じの方がおられましたらご一報いただけると幸いです。