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2020/11/08 17:19

無題

 子供のときのことを想像すると自分は必ず夏を思い出す。友達と虫かごもって麦わら帽子を深くかぶり辺りを練り歩く小さな探検隊だ。

 とりわけ男の子は秘密基地のようなものが好きで私も例外でなかった。

 小さい駐車場位のスペースにドラム缶トンネル。草木の手入れも行き届いてないスペースを僕らは秘密基地と呼んだ。いって何するわけではない、レモンスカッシュを仲間で飲んだり駄菓子屋で当時流行ってた10円クジなどを開いたり捕まえた虫などを対決させたりしていた。

 成人してからのある年の郷帰り。ふとしたときに誰かが切り出す
 「あそこら一帯も様変わりして当時の面影もなくなったねー」

 「そうそう。今はアパートやビルだもんねーあの駄菓子屋懐かしいね」

 そうなのだ。区画整理やらなんやらで当時の駄菓子屋周りは一面ビルやアパート、大型のスーパーなどにここ何年かで変わっていたのだ
 懐かしさと実家の何とも表現し難い安心感からついつい話に割ってはいってみた
 
 「やっぱ一番思い出すのはあの秘密基地だわな。未だに夢に出てくるもん」

 反応がない

「いやいやあのドラム缶トンネルの空き地だわね」

反応がない
「えっ?覚えてないの??散々俺あそこであそんだじゃん」

 結露から言えば家族誰一人その空き地に心当たりがないという事だった

 何とも言えない感情だった。自分の思い出を否定され、あれだけ遊んだのだから何回も何回も話をしたろうに覚えていない面々に内心腹が立った

 翌日吸い寄せられるように私はその場所の跡地に向かった。確かに一面大きく変わっているがまるでタイムスリップしたかのように一軒の豆腐屋が残っていた。そうなのだ。この豆腐屋の横道を草という草をかき分けた先が例の秘密基地だった。
当時と違い豆腐屋の横道はキレイに整理されており私有地なのでこれ以上進むことはできない。立証作業もここまでかと思った矢先、店先から店主らしき老人が気だるそうに外にでてはタバコに火をつけた

 老人の吐く煙がプカプカと漂っている。意を決して老人に近づきこう切り出した
 「昔このお店の裏の空き地でよく遊んでいた者です。懐かしくて訪ねたんですが空き地はビルか何かになりましたか?」

 店主の老人は丁寧に色々教えてくれた。
 駄菓子屋は地上げ屋に目をつけられひどい嫌がらせを受けなくなく店を手放したこと。その影響で自身のお店の売り上げがめっきり落ちたこと。身体がゆう事聞かないので店を畳みたいが跡継ぎもいないし売ろうにも買い手がつかない事

 最後の最後まで秘密基地の話は出てこなかった。

 老人の吐いたタバコの煙がまだ空を彷徨っていた

 地図で調べると豆腐屋の裏は地元の大きな川の用水路になっており、それはそれは向こう何年で変わるようなものでなく先祖のそのまた先祖の代からそこにあるものだった。

 僕は思う。子供には子供にしか共感できない、あるいはその時にしか見る事のできない何かがあるのではないか

 今思えば断片的であの秘密基地に誰とよく行っていたかなど断言できるものではないしこれ以上確認するのは野暮だ

 でもあのときあの場所に秘密基地は確かにあり僕の思い出に残り続けている

 子供のときのことを想像すると自分は必ず夏を思い出す

 
 
 

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