211件のひとこと日記があります。
2019/03/14 01:15
『ジョッキー』松樹剛史 著
この小説は以前、はなじろうさんが読んでいらっしゃってたものです。
おもしろそう!と思い、僕も手に入れて、今回読んだのでした。
2002年に刊行された、
第十四回小説すばる新人賞受賞作。
競馬モノです。
今回読んだ文庫版は、2005年の発刊。
主人公・中島八弥はあまり騎乗依頼のないフリーの騎手。
そんな彼を中心とした競馬世界の日常にみることができるのが、
その勝負の世界であるがゆえの様々な人間模様と馬模様。
いつも金銭面で苦悩する八弥がはたしてどう生き抜いていくか。
読了して、この小説世界にでてきたキャラ達と別れるのが
名残惜しく感じられる、おもしろいエンタメ作品でした。
小説を書くのには、出だしが難しいと言われます。
新人賞ですし、そのあたりに少々難があるように感じました。
さらに、しばらくは「読みがたい…」と感じるところが続く。
(そのあたりは自分の書くものとの比較です。
自分のまずい文章と似ているところがあって、
それは直した方がよいように思うものです)
でも、読んでいくうちにずんずん文章がこなれていきますし、
巧みな部分もうまく活きてくるようになり、
存分に物語世界に没入できるようになりました。
もっと言えば、競馬の世界への知見が、
これを書いた当時23,4歳の若者にしては、
そこに尋常じゃないくらいの広さと深みがあり、
そういったものに支えられて、
執筆が弾んでいるように感じられもしますし、
なかなか他人が真似しようと思ってもできない
その調査力、取材力が察せられます。
新人賞を勝ちえたのは、それらの勝利ですね。
知見に支えられたイマジネーションの深さによって、
読者をぐいぐい引き入れていく文章にどんどんなっていきます。
ただ、いくぶん、女性のキャラクターの造形が薄っぺらい。
主人公の後輩騎手なんて、面白みがあり、
でも、憎たらしいところもありながら、
それでも愛すべきキャラクターに仕立ててあるという上手さがありますが、
女性キャラは単調でうわべ的です。
終盤にかけて、若干厚みがでてきますが、
それでも、造形はもうちょっと足りないと思う。
ま、そういった部分があるにせよ、
騎手のテクニックについての描写など、
ふつうは書けないところにも踏み込んでいるし、
どんどん盛り上がってもいきますし、
エンタメとしてよかったなあという感想です。
競馬小説を読むのは、
もしかすると若い頃に読んだ、
宮本輝さんの『優駿』以来。
あの小説はあの小説ですごくおもしろいのですが、
この『ジョッキー』も良さのあるおもしろい小説でした。
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ますく555さん
はなじろうさん、ありがとうございます^^
松樹さんの他の作品はまあまあでしたか……。
小説家には、クオリティの高いものを何作も書けるタイプもいれば、一点突破してこれで終わりみたいに見える人もいて、賞の選考なんかではそこをみる審査員もいるようです。
作家に編集者がついて、「新しいのができたら送ってください」と言われ、送っても、ペケを食らい、その後、ちゃんと読んでもらえているかもわからなくなる状態に陥るケースがあるそうで、それは大変だよなあと思います。
この本に作者の生年が載っていて、月日は掲載されてませんでしたが、早生まれじゃければ、僕と同級生世代でした。これまでの作品数が4つ5つくらいだと、なんだかいろいろと想像してしまいます。 -
はなじろうさんがいいね!と言っています。
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はなじろうさん
『ジョッキー』読まれたんですね。松樹剛史さんはその後も競馬小説を含めて何冊か出していて応援の意味も込めて買ったけど、どれもまあまあ面白かったという感じかな(笑)。
話の出だしに少々難があるというのは他の作品にも見られて、主人公とそれにまつわる人との出会い方があまりにも唐突すぎるんですよね。初対面の人に対してそんな声のかけ方はないだろうって感じで(笑)。
最近はサッパリ本を出さなくなってしまったけど、執筆力を磨いて復帰してくれることを願いたいです。