懐かしき声　2022 大阪杯 34日前

仕事仲間に電話をかけた
電話を受けたのは女性の声だった
嫁さんか、それとも娘さんか？

彼の嫁さんは、僕が結婚を前提でお付き合いを申し込んだ人だ
彼女は同時期に、彼と僕とのその申し込みを受けるはめになっていた

結婚前の僕らの付き合いは、とあるグループでよく遊ぶ仲間だった
僕は彼女を捕まえては、いつも会話を楽しんでいた
おとなしい彼女がよく笑ってくれたから、僕は彼女も楽しんでいる、そう思っていた
そして僕の目には、彼女が彼とはあまり話しているようには見えなかった

彼は僕らの二つ年下で、
僕と彼女は同い年、三十路を迎える一歩手前だった
今でこそ結婚適齢期などという言葉は死語になったが、
当時はまだ微妙にそんな空気が残っていた
その空気に押されることを嫌った僕は、
「結婚を前提に付き合ってほしい　でも、僕と付き合ってから気が合わないと思ったら、遠慮なく断ってくれ」
そう告白した

「それは、あなたにとっても同じ事？」
僕が彼女のことを気に入らないと思ったのなら、遠慮なく別れを告げれる
そんな事、考えたこともなかった
しかし、
「…、そうだね」
そう答えた
彼女に気を遣わせないために、そんな思いがあった
これは間違った返答、今はそう思う

彼女の選んだ人がどう告白したのか、僕は知らない
けれど彼は僕と違い、押しの一手だったのだろう、
スイッチが入ると突き進む彼のことだから

当時のことを後悔しているわけではない
今日の日記には上記の文章が味になる、そう思ったから書き綴ってみた

電話越しの声は彼女によく似ていた
少し焦ったように喋る癖、女性にしては低い声、へりくだったものいい
思わず
「久しぶり！」
そう言いかけたがその直前、彼女の声の若さを一瞬の間を置いて認識した
「〇〇さんはいらっしゃいますか？」
僕は落ち着いて、そう彼の名前で訪ねた
「すみません、父は今出かけてまして…」
やはり娘さんだった
しかしその声の懐かしさにほのぼのとした
当時の彼女より10歳ほど若かったが

後日、彼にメールを出した
「あまりにもそっくりで、嫁さんかと思ったよ」と
しかし彼は、
「電話だからそう感じるんでしょうかね　僕はあまりそう思ったことはありません」
そんな返答だった
まぁ良くある話だ
僕も電話の受け答えでは、親父や弟とよく間違えられた
お互いは全く似ているとは思ってはいない
近くにいては気づかないことも、離れていれば気づくこともある
しかし逆に、
僅かな違いは、離れていては判らないが、近くにいるものには大いに判ることもある
彼は、僕の知らない彼女をたくさん知っているのだろう

外野がどうのこうの考えたって、競走馬の細かな部分は計り知ることが出来ない
故に僕の馬券は当たるわけがない
そう締めくくって、無理矢理競馬っぽい一言日記に仕上げようと思う