コラムその13 「衝撃」〜ペガサス編〜

国内ではもはや敵無し。無類の強さを誇るディープが次に見据えたのは世界。世界最高峰のレース、凱旋門賞だ。ディープを避けるかのように集まった出走馬は8頭。8頭立てでディープが負ける事は無い。誰もがそう信じていた。いざ、レース。いつもと違い先団での競馬を選択、そして、いざ直線で追い出そうとするがハミを取らない、ギアも上がらない。1度は先頭に立ったディープがなんと後ろから2頭に差されたのだ。3着。。こんな事が起こり得るのか。しかもレース後、禁止薬物の使用が発覚し失格に。武はこう語る、今だに悪夢として夢に出てくる、と。一説によるとディープはフランス到着後、風邪を引いていた。その影響が大きかったとも言われている。国内でハーツに敗れた唯一のレース、有馬記念。その時もディープは・・・風邪を引いていた。

こうして挫折を味わったディープは国内に戻る。その初戦はジャパンカップ。名手岩田の駆るドリームパスポートを2馬身差で撃破。見事、凱旋門の悪夢を振り払った。武の指5本に金子オーナーの指が1本。感動的なシーンと共に6冠を達成した。

そして、ついにその時を迎える。ディープインパクト、ラストラン、第51回有馬記念。ファン投票第1位、単勝支持率70.1％。後にディープ生涯最高のレースとして後世に語り継がれるレースだ。いつも通りの後方から。徐々にポジションを押し上げる。最後の直線は当時の実況で振り返りたい・・・

外の方からスーッと上がっていった赤い帽子ディープインパクト！！
ディープインパクトがここで翼を広げるか！！

ディープが今、翼を広げた！！

外目をついて上がってくる！メイショウサムソンをあっという間に置き去りにした！
ディープインパクト先頭！
ディープインパクト先頭！
間違いなく飛んだ！！間違いなく飛んだ！！

最後の衝撃だ！！

これが、最後のディープインパクト！！！

天を駆けるペガサスの如くディープが
翼を広げた瞬間だった。
観客の大地を揺らすが如くの大歓声、そして歓喜の涙、嗚咽。鳴り止まぬディープコール。全ての時が止まった。。
馬名通りの”強烈な衝撃”を見るもの全てに与えた瞬間だった。
こうしてG1、7冠の栄光を胸にディープはターフから去って行った。多くの熱いファンの夢と共に。。今でもふと思う、あれは夢だったのでは無いか、と。

そして現在、ディープは種牡馬として数々の名馬を輩出し、競馬界を席巻している。
もちろん、ライバルであるハーツクライの仔を始め、血を超えた戦いが今も尚繰り広げられているのだ。
あの時、神がこの馬を創り出さなければ現在の競馬界は全く違うものとなっていただろう。

ディープインパクト、お前のその凜とした
瞳が見据えるもの、それは日本競馬の未来だったのかも知れない・・・