コラムその18 「女帝」〜前編〜

最強牝馬に与えられる称号の一つ「女帝 」

牝馬らしからぬ雄大な馬体に、伸びやかなストライド、しなやかや筋肉から繰り出されるそのスピード。そして、鹿毛に映える美しく白い額の流星は、さながら賢者の杖の如し。
父タニノギムレット 母タニノシスター
「ギムレットよりも強い酒」
「冠名のタニノで割る事をせず
ストレートで」
そんな思いを乗せて名付けられた馬がいた。最強牝馬、G1・7冠馬
女帝ウオッカ。。。今日は彼女の話だ。

一般的に牝馬は競走能力で牡馬に劣る。これは生物学的に仕方のない事だ。筋肉量が違い、また最大酸素摂取量も違うのだ。しかし、例外が稀にある。牡馬に劣らぬ筋肉を持ち、スタミナ、スピードともに引けを取らない。そんなスーパー牝馬が稀に産まれる事がある。それが彼女ウオッカなのだ。角居厩舎に入厩してすぐの調教で後のG1馬デルタブルースやハットトリックに負けずに喰らいついたと言う。牡馬に決して屈せぬ根性をも合わせ持っていたのだ。

そんなウオッカもすくすくと成長し迎えた新馬戦を見事勝利。次の黄菊賞は2着、そしてG1阪神JFで後のG1馬アストンマーチャンをクビ差で撃破。抜け出して粘るマーチャンを驚異的な末脚で差し切ったのだった。走破タイムは2歳マイルレコード記録。これが記念すべき1冠目であった。端正な顔はしっかりとその未来を見つめていた。

明けて翌年、エルフィンS、上がり最速で豪快に突き抜ける。
そして迎えたチューリップ賞。そこには、今後激しくしのぎを削る事となる宿命のライバルがいた。ダイワスカーレット。。「ミスパーフェクト」の異名を持つ彼女の存在がこの後、ウオッカの能力を覚醒させる事となる。
レースでは、最終コーナーで早くも抜け出したスカーレット、追うウオッカ！逃げるスカーレット、迫るウオッカ！もはや主役はこの2頭だった。壮絶な追い比べの末、見事にウオッカがクビ差で差し切った。この2頭は別次元だった。3着に6馬身もの差をつけて。

続くG1桜花賞。チューリップ賞のように最終コーナーで好位から抜け出しを図るスカーレット、追うウオッカ、しかし今度はスカーレットも止まらない。むしろ脚色は絶好だ。懸命に追いすがるウオッカを嘲笑うようにスカーレットが先にゴール板を駆け抜けた！ウオッカは敗れた。
ライバルは・・・強かった。

こうして最強のライバルに敗れたウオッカと陣営はある決断を下す。ダービーへの出走だ。周囲は無謀だと言う声。しかし、陣営はその声を押し切り出走を決めたのだった。
いざレース！内枠を活かし中団内目で脚を溜めるウオッカと鞍上四位洋文。最終コーナーではまだ中団。逃げるアサクサキングス。粘るアサクサキングス！その瞬間、馬群を割って伸びてくる黒い馬体！ウオッカだ！！！凄まじい切れ味！上がり33.0の豪脚でアサクサキングスを置き去りにし、見事史上3頭目、なんと64年ぶりの牝馬でのダービー制覇を成し遂げたのだ。
実況は叫ぶ「半世紀以上の空白を埋めて、ついに牝馬がダービーを制しました！！」

こうして名実とともに栄光を勝ち取ったウオッカは、宿命とのライバルとの再戦を心に誓ったのであった。。

後編へ続く。