コラムその23 「父」

2016年12月3日（土）
この日は私達家族4人と母の5人で朝9時から病院にお見舞いに行く予定だった。しかし、待ち合わせの前に母から１本の電話。嫌な予感がした。「病院から連絡があり、父の息が大分浅くなっている」との事。私は母と合流し車を飛ばした。きっと間に合う、そう思っていた。病院に着き、急いで病室に向かった。が、残念そうな看護師さんの顔。間に合わなかった。たったの10分前に息を引き取ったそうだ。母や私の妻は泣いてるように見えた。子供達は初めての事で唖然としていた。私は少し前から覚悟が出来ていたし、長男の責任からか不思議と涙は出なかった。でも心の中では泣いていた。
手を握るとまだ温かい。さっきまで生きていたんだ。今にも喋り始めそうな安らかな顔。
ごめんね。間に合わなかったよ。朝まで、私達が来るまで待っててくれたんだよね。頑張ったね。本当、ごめん。私は心の中で何度も何度も謝った。

父は自営で建築設計士をしていた。職業柄、忙しい事が多く、私達兄弟（私と弟）を遊びに連れて行ってくれた記憶はほとんど無かった。出掛けると言えば母にデパートに連れて行って貰えるくらいだった。それでも、時間を作ってくれてキャッチボールしてくれたり、将棋を教えてくれたり、中学に入ったら大好きな野球中継を観るのを我慢して、週に2回の塾に車で送ってくれた。俺、ありがとうって1度も言った事無かったね。本当は感謝してたんだ。ありがとう。今更遅いよね・・・
私も2人の娘の父親となり、昔は分からなかった父の優しさが少しづつ分かって来たような気がした。

父がまだ意識もしっかりしていた頃「俺って、お前にとってどんな父親だった？」と不意に質問された。こんな事聞かれるなんて初めてだし本当に驚いた。少し考えて私は「いい父さんだったよ。何不自由無く育ててもらったし。ありがとね」と答えた。父は背中を丸めて「そうか、そうか」と静かにうなずいていた。あの時はもう自分の最期を覚悟していたのだろう。

それから容態は急変。ほとんど話せなくなり、ご飯も食べなくなり、痩せていった。目も全く見えなくなっていた。大学の頃、ボクシング部の主将をしていた父。強かった父はそこにもう居なかった。

そして、12月3日午前9時24分、医師が確認。
私の父は逝った。
普通、末期ガンは痛みを伴う事が多い。でも父は全身転移の割には痛みはほとんど無かったのだ。それだけは本当にありがたかった。神様に感謝した。本当に安らかな顔をしていた。良かった、痛い所が無くて。本当に良かったなぁ。

父さんには感謝しかない。出来ればもう少し話がしたかった。体調が悪化する前にいくらか話が出来たのが救いだ。お見舞いの度、車椅子で喫煙所まで連れて行って話をした。そんな父はもうこの世にいない。
「命あるものは必ず天へ召される」スズカの日記で書いた言葉を思い出した。

先に行っててくれ。俺は父さんの好きなタバコもやらないし、酒も飲めない。でも、話し相手にはなってあげるから、もう少し待ってて。墓参りには行くよ。そこでまたドラゴンズのお話ししようね。

母さんと後の事は任せて。

ありがとう。父さん。
今までお疲れさま。。