大井の名馬(ゴールドヘッド〜果てしなく遠いクビ差〜)

□

『あのぅお聞きしたいんですが…大井競馬場ってどうやって行けば良いんですか？』
『ん？大井町か大森から無料バス…あとは立会川…キミは？』
『実はデビューを控えててそしたら道を間違えてしまい…』
『今は開催してないから行っても閉まってるよ』

『そうなんですか…貴方は？』

『Ｍｒ・ＴＣＫ……しがない眼鏡だよ』
『Ｍｒ・ＴＣＫ…たしか年末に高熱で倒れ…』

『ゴホン大井競馬場の事をもっと知りたくないかい？』
『えっ？』
『キミの偉大な先輩達の話だよ♪』
『是非』

『じゃあ最初はね…大井競馬場の七不思議は知ってる？』
『ファンファーレが乱れると荒れる・G1の日は時空が歪む…』
『違う的場文男騎手が勝てないレースがあるんだよ』
『へぇ〜』
『１番…惜しかったのが９８年』


的場文男が最も「ダービー制覇」に近付いた年

それがゴールドヘッド□に跨がった９８年でした
羽田盃を逃げ切りで制し、その強さから三冠馬候補と呼ばれながら…東京王冠賞は宮浦正行に乗り替わり３着…惜しくも三冠達成は夢に終わるも、再びヤネが的場文男に戻ったダービーは当然有力視
川崎の佐々木竹見・船橋の桑島孝春、石崎隆之と共に『南関四天王』と呼ばれたこの時代
彼だけが勝ち得ないダービーは、少なからず気にしていた事でしょう
今年こそはと意気込んだ的場騎手ですが…立ちはだかったのはリーディングの石崎隆之でした
５戦３勝の上がり馬ゼンノブレイブ王冠賞も不参加の別路線組で、同じ川島厩舎のアトミックサンダーを張田に譲り、当時不動のリーディングだった石崎騎手がゼンノブレイブを選んだ事により人気はうなぎ登りでゴールドヘッドを抑え１番人気に
他では王冠賞を勝ったハカタビックワンや善戦マンのモンスター
的場文男の悲願か？またも石崎隆之が阻止するか？レースがスタートします
逃げてナンボのゴールドヘッドがハナを主張し先頭…しかし鈴を付けたのは、援護射撃するはずの張田アトミックサンダーではなく１番人気のゼンノブレイブでした

『的場文男のゴールドヘッド』
『的場が逃げます』

と実況も場内からくる的場騎手ダービー制覇の期待を察した実況

『ピッタリマークする石崎のゼンノブレイブ、両雄が並んで向正面へ』


執拗なまでにゴールドヘッドに並びかけるゼンノブレイブ不気味だ…

３コーナー過ぎに振り切りにかかる的場騎手…しかしピタリと離れずに石崎騎手のゼンノブレイブも追走……と同時に張田のアトミックサンダーがいつの間にか３番手に
川島厩舎の２頭出しは、必ずいずれかダミー…それが１番人気でも
直線！ダービー制覇へ懸命渾身の追いを見せる的場文男〓しかし終始つつかれたゴールドヘッドに突き放す力は無い
後退して行くゼンノブレイブに代わり、アトミックサンダーが一気に伸びる
的場騎手も馬体を併せに行き、叩き合いに持ち込むも…アトミックサンダーがクビ差出た所がゴール

『的場破れました〜２着です』

故人となったゴールドヘッドの調教師で、名伯楽の蛯名末五郎さんは言いました

『次の年からダービーが２０００になったんだよね…運が無かったよ』

なるほど、確かに古馬になってからのゴールドヘッドを見れば２４００は長かったかもしれない
ただ当時の力は明らかに抜けていて、南関の４歳馬でそこまで影響があったとは思えない…一つの要因ではあるにせよ全てではない
的場に勝たせてたまるか…川島正行の策略石崎隆之+１番人気の愛馬に援護射撃までさせた執念
そして人気に捕らわれてはいけないとゆう基本的な部分
この東京ダービーは他と違う奥深さを感じました
ゴールドヘッドはその後も大井競馬場だけを限定に走りましたマイルグランプリ・大井記念を制し、交流戦にも積極的に参加し、ボンネビルレコードの前に居た…『大井の大将』でした



□

『あのダービーだけは本当に忘れられない』
『ゴールドヘッドみたいに大井を代表する馬になりたいです』
『場内に居たファンも…まさか今後１４年間も的場文男がダービーを勝てないとは、想像出来なかっただろうなぁ』
『今年こそは…』

『競馬に絶対は無いが、的場文男は絶対に勝てない(キリッ)』