大井の名馬(ニックバニヤン〜帝王の逆襲〜)

□

『水曜は金盃ですね〜』
『良いメンバーだね』
『プーラヴィータ…トーセンルーチェ…あれ』
『どうした？』

『ツルオカオウジに的場文男騎手が』
『意外な組み合わせだね〜』
『乗り替わりで恐いですね』

『的場騎手は乗り替わりよりも…本来はジックリと馬を育てる騎手なんだよ？』
『へぇ』
『努力が実った…良い例を紹介するよ』




時は２００７年…既に南関・大井リーディング共に内田に譲り、下からは戸崎圭太が猛追していた的場文男５１歳……安定味に欠ける騎乗が目立ち、限界との声も
そんな中、佐々木洋一厩舎に入厩したある馬
的場騎手が能力試験を担当した

『柔らかい馬だね〜乗せてよ』
『じゃオーナーに頼んでよ』

『乗せてください』
『よろしく』

嘘のような話羽田盃馬ニックバニヤンでした
デビュー前から砂を被る事を嫌い…能力試験でも砂を被って減速そこから外を回して改めて一位通過とゆう破天荒なモノ

『速いね〜砂を被ったら止まったけどね(笑)』

デビューからスピードの違いで３連勝ハイセイコー記念でモマれる厳しい競馬を経験してから逆に連敗を重ねます
精神面の弱ささえ解消されれば陣営も試行錯誤

クラシックの前哨戦、京浜盃はブリンカー装着で新味に期待しますが…ニックバニヤンは逆にブリンカーを気にしてしまい、オマケに砂を浴びてしまう始末で…大惨敗
しかし佐々木調教師は望みは捨てませんでした

『砂を被って後退したけど、また盛り返したんだよ！やはり能力はあるんだ』

『次走はブリンカーもメンコもいらないよ』

馬具その他を嫌うのは、竹見さんから続く昭和の騎手の考え□走らない馬を走らせるのは道具じゃない……騎手だ

デビューからの連勝で賞金が足りて、羽田盃に駒を進めます。的場文男騎手は当時羽田盃５勝を誇り、密かな期待を込めます
しかし佐々木調教師…オッズを見て驚愕

『あらら〜黄色いよ』

大井競馬場のオッズ掲示板は１００倍を越えるオッズは、黄色く表示されます
クラシックで的場文男騎乗となれば『的場人気』で無理矢理オッズが下がりそうなモノなのに…それだけニックバニヤンは期待薄でした

『あんだけ期待された馬なんだから…鼻あかしてやろうよ的場さん』
『……オレに任せろ』

後輩だった洋一に向かって５１歳のベテランは発した
人気は今野騎乗のディラクエが断トツの１番人気で、これまでのレースぶりから羽田盃は通過点と言われる逸材です

レースがスタート

出ムチをくれてニックバニヤンが行く構え
しかし内目からホウザンが行き、コラボスフィーダが行く気を見せると、的場騎手は外の３番手をキープ□いつもならイン３に切れ込むトコですが

『砂を被ったら止まっちゃったよ(笑)』

絶対に前に馬を置かず…外を外を回すディラクエは中団で、いつ仕掛けるか虎視眈々
勝負所でホウザンが脱落し、コラボスフィーダの外を進んだニックバニヤン…仕掛けずにジックリ

するとディラクエが外からマクり開始！同時に的場騎手の手綱が動く
直線！
気分良く行けたニックバニヤンは直線力強く伸びるディラクエが猛追

『嘘〜……い…行け！行け行け！！』

半ば冗談と思っていた的場騎手の言葉…先頭を走るニックバニヤンに佐々木調教師も声を上げる
そして大舞台限定の…肩ムチ連発が出た

ディラクエを抑え込み優勝□
内田・戸崎にリーディングを譲り、どこか大人しくなっていた的場文男が魅せた久しぶりの妙技単勝万馬券の大波乱を演出しました



『ダービー勝ちたいんだよ』

人馬一体で臨んだ東京ダービーは

見事な早仕掛けで大惨敗(笑)
ニックバニヤンも低迷し…その後は門別→園田に移籍
昨年、勝利したと聞き動画を観ました

やっぱり外を気分良く走ってましたね



□

『どう？乗ってもらったら？』
『……嫌だ…』
『なんでさ〜』

『首と肩が痛くなりそうで』