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2025/03/05 23:59
3大始祖消滅の危機…日本で0.4%の血を残すべくカタール王族からアロースタッド
サラブレッドは日本だけでなく、世界に現存するすべてのサラブレッドが1頭の例外もなく、ダーレーアラビアン、バイアリーターク、ゴドルフィンアラビアンのいずれかの血を受け継いでいるという事実。この3頭は、サラブレッドの起源として「3大始祖」と呼ばれている。だが実は現在、この3大始祖が「極めて深刻な消滅の危機」に瀕していることをご存じだろうか。
小説家・宮本輝の手で1986年に誕生し、今なお多くの競馬ファンの愛読書となっている長編『優駿』。その中で主人公の渡海正博が、ヒロインの和具久美子に競馬の「ロマン」や「魅力」を伝えるため3大始祖について熱く語るシーンはあまりに印象的で有名だ。すべてのサラブレッドの血がこの3頭に行きつくことを知っていた人でも、『優駿』で初めて3大始祖に関しての詳しい話を知った人も多いはずだ。だが、このままではこの話が”嘘”になってしまう。何故なら現在のサラブレッドは3大始祖の中でも、ダーレーアラビアンが圧倒的なシェアを誇り、バイアリーターク、ゴドルフィンアラビアンが消滅の危機に瀕しているからだ。
日本競馬で具体的な話をすると、今年2歳のデビューを迎えるサラブレッドで血統登録されているのはX902頭。その内、ダーレーアラビアンが約99.9%にあたるX599頭を占めている。これはもう「すべて」と述べても過言ではなく、世界では日本のサラブレッドの100%をダーレーアラビアンと認識している国も多いという。率直に述べて、数年後にその認識はまったく間違いのない”事実”になってしまうことだろう。
現在の日本の競馬の4大血統は述べるまでもなく、それらすべてはダーレーアラビアンの系譜を継いでいる。
では逆に、日本でゴドルフィンアラビアンやバイアリータークの系譜を継いでいるのは、どういった血統の馬なのか。ゴドルフィンアラビアンで有名なのは、1976年のダービー馬クライムカイザーだ。他にも、わりと近年ではサニングデール(高松宮記念)、カルストンライトオ(スプリンターズS)などマンノウォー系の快速馬の活躍が目立っている。
ただ、日本で凋落が著しいのはバイアリータークの方だろう。日本でバイアリータークといえば、何といってもパーソロン系である。1984年に日本競馬史上初となる無敗でのクラシック3冠を達成したシンボリルドルフを筆頭に、その息子であるトウカイテイオー(G1・4勝)、若き武豊と名コンビだったメジロマックイーン(G1・4勝)など、日本で一時代を築いたことはあまりに有名だ。しかし、大将格のシンボリルドルフがトウカイテイオー以降に結果を残せなかったことを始め、テイオーもマックイーンもファンが期待したほどの産駒を残せず…。その一方でノーザンダンサー系のノーザンテーストや、ヘイロー系のサンデーサイレンスといった新たな血統が導入されるにつれ、パーソロン系は衰退の一途を辿った。現在ではギンザグリングラスというメジロマックイーン産駒が、日本におけるバイアリータークの「最後の砦」となっていたが逝去。変わってメジロ系ではなくルドルフ系から種牡馬になったクワイトファインだけになっていた。この事態を重く見てバイアリータークの血を残そうと立ち上がった人物がいる。カタールの王族であるシェイク・ファハドだ。日本でもパールコード(秋華賞2着)やグレイトパール(平安S)のオーナーとして知られるファバト殿下は、日本のセレクトセールにも積極的に参加するなど世界を股に掛ける大馬主である。
そんなファバト殿下が所有するバイアリータークの系譜を継ぐ種牡馬がドゥーナデンだ。豪州のメルボルンCや香港ヴァーズといった世界的なG1を制しただけでなく、2013年には日本のジャパンCにも参戦して5着と力を見せたドゥーナデン。メルボルンCでは現在、日本で活躍しているC.ルメール騎手に豪州初G1のタイトルをプレゼントした間柄だ。
そんなドゥーナデンの血統的なポテンシャルを高く評価しているファバト殿下は、世界的にも”虫の息”となってしまっている「バイアリータークのサイアーラインを復活させたい」と並々ならぬ意気込みを語っている。なんとドゥーナデン産駒でレースに勝つと、殿下自らが特別なインセンティブを支払う制度まで作っているというから、そのホースマンとしての使命感にただただ敬服するばかりだ。果たして世界で0.4%、日本ではわずか0.03%しか残っていないバイアリータークの血は復活できるのだろうか?
またこれとは別にゴドルフィンアラビアン子孫のパールシークレットがアロースタッドに今年から供用される。果たしてゴドルフィンアラビアン系とバイアリーターク系は3大始祖に残ることができるのだろうか??