【禅寺の裏恋物語】(27)

驚いた馬が暴走を始めた。馬車引きさんは馬を追いかけて走っていく、僕は道の真ん中に倒れている住職を、起こし道の端に引きずっていき、状態を聞いたが、方々が痛くて動けない、すぐ近所の人たちが集まってきて、手伝ってくれた。
雨戸を持ってきて、担架がわりにして、その上に寝かせ、4人で近くの病院に運んだ。
自転車は馬車に挽かれてグニャグニャ。
本人も間違いなくひかれているはずである!僕は僕で自分のことで精一杯だったから、ぶつかって倒れた後のことはあまり記憶にない。近所の人がお寺の方には連絡をしてくれたようで。
みんなが走ってきた。住職は手術室に入ったままである。
二時間を過ぎたころやっと医者が出てきて、左足首の複雑骨折と右太ももの圧迫で打撲があったようである。
後で解ったことであるが、馬の方には怪我は無かったようである。バタバタしている内に5時近くになっていた。
病院の付き添いは住職の妹さんが着くことになり、奥さんは入院用品の準備に一旦帰り用意がすみ次第子供を連れて病院に向かった。僕にすると、久しぶりの、静かな夜であったように思える。必ず当直のお坊さんが一人はいるので一人ボッチはまず有り得ない。僕の部屋と、当直室は隣どうしだったから話し声は筒抜けであった。
だから友達が来てでも部屋ではなんの話もできなかった。
奥さんが夜、僕の部屋にきて明日の打ち合わせをするにも気を使う始末であった。当分の間おとなしくしているのが最善の策だと考えている。