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2017/05/04 21:50
スナック・パドック「NHKマイル」その1
「マルゼンスキーって知ってるよね」ジャックダニエルをチビリとやる。
「知ってるさ」マスターはお通しの仕込みをしながら返す。続けて
「天才ランナーとでも言うんだろうな、あの馬は」仕込みの手が止まった。
「テンポイントやトウショウボーイと同じ年代だな」オレは三頭がいっしょに走る
有馬記念が見たかった。
「馬主が無敗にこだわったんだろ」マスターは言う。
「種牡馬としての価値を上げたかった」とオレもそう思っていたのだが、例えあの
二頭と戦っていたとしても負けなかったのではないだろうか。
「橋本善吉でマルゼンかぁ」ケンちゃんはスマホで調べている。
「スケートで有名な橋本聖子のお父さんさ」とマスターが情報を加える。
「だったらマルゼンスケートの方が良かったんじゃない」ケンちゃんが提案する。
「お前はバカだな、とてつもないバカだ。スキーは、偉大な名馬の父・ニジンスキー
からいただいてるんだぞ」そんなコトも知らないのかと怒る。
「そんな顔して怒るコト?何でそこまで言われなきゃなんないんだ?」
ケンちゃんは不満を爆発させた。
「だってお前、競馬語っててスキーって言ったらニジンスキーなんだよ。
インパクトって言えばディープインパクトだろうが」マスターは力が入る。
「あぁそうですか。分かりました。ゴメンなさい。」
ケンちゃんはマスターの競馬に対する熱い思いを知ってる。ゆえに引くときは引く。
「で?マルゼンスキーがどうしたんだ?」マスターはオレの顔を見る。
「ミスエルテがNHKマイルに出るんだ」と言うとケンちゃんが
「朝日フューチュリティで男馬に挑戦した女馬でしょ?4着だったけど」
と情報を乗せる。
「それがどこかマルゼンスキーの雰囲気持ってるんだ」オレがそう言うと
「女馬だろ?それがマルゼンスキー?おいおい、どうイメージすりゃいいんだよ」
マスターは少々戸惑っている。
「走りのキレが凄いんだ」
マルゼンスキーは○外馬で当時は走るレースが限られていた。そこへ持って来て
慢性的な脚部不安を抱えていてスムーズに出走計画が立てられない。
そんな中、「残念ダービー」とも称されていた「日本短波賞」に出走した。
相手はプレストウコウ(のちの菊花賞馬)。中山・芝・1800m。ポーンとゲートを出ると、
あれよあれよと馬群を引き離して一人旅。どこまで引き離して走るんだ?
と見ていたら3角過ぎでブレーキがかかり止まりそうになる。故障発生か?
とファンは大慌て。ところが後続が近づいて来たのを見計らって再発進。
そしてまた加速するとグイグイ脚を伸ばしてプレストウコウに7馬身半差を付けて
ゴール板を駆け抜けた。そんなレースをする馬だった。
一旦スピードが落ちたとしても身体能力の高さですぐにギアを上げてスピードアップ
が出来るという天才ランナーだった。
ミスエルテの調教での走りを見てマルゼンスキーのそれを思い出した。
少々首が高いが動きは機敏である。ゴーサインが出てスイッチが入るとキュイーン!
とターボエンジンが起動してスッスッとキレるフットワークを繰り出す。
「生意気な女はダメね」桃ちゃんは中ジョッキを一気に煽る。
「素質があったとしても生意気な女はダメ!」3口で生の中ジョッキを空にした。
「このお通し、美味しいわね」桃ちゃんはアボガドのあぶり焼きが気に入ったようだ。
「甘えるのが下手なのよ。それだけのコト」きょうの桃ちゃんの酔いっぷりは
マルゼンスキー並みのスピードだ。付いていける男はそうはいない。
ミスエルテが生意気な女なのかは分からない。
しかし、調教でのあのキレのある走りを見たら「生意気な女」なのかも知れない
と思った。手前を何度も代えて勝手気ままに走っている。そんな姿も生意気に見える。
ターフを自由気ままに走る生意気天才ランナーには府中の広い直線がお似合いだ。