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2017/05/12 20:23
スナック・パドック「ヴィクトリアマイル」レース前その3
「やっぱりベテランの馬たちの走りは信頼がおけるわな」
マスターは競馬も経験がものを言う世界だと常々語っている。
「いやいや、期待できるのは新興勢力ですよ」
ケンちゃんは若者を代表して力強く宣言する。
「中心になるミッキークイーンは中間管理職か?」
オレは二人にほぼ同時に視線を送る。
「あのポジションが一番難しいんだよ」
マスターは腕組みをしてひとつ溜息をついた。
「上からは叩かれるし、下からは突き上げを食うからな」
オレも追いかけるように溜息をついた。そしてジャックダニエルをチビリとやる。
「4歳馬世代の実力馬たちは皆居ないんだから、あの二頭に期待がかかるな」
ケンちゃんはスマホの馬柱を見ながらグラスのビールを空けた。
このレースを考えるに一番重要なのは牝馬古馬路線の現在の流れである。
中心を成しているのが、5歳馬たち
ミッキークイーン(オークス1着・秋華賞1着)
レッツゴードンキ(桜花賞1着・高松宮杯2着)
ルージュバック(オークス2着・毎日王冠1着)
クイーンズリング(秋華賞2着・エリザベス女王杯20161着)
7歳馬は、
スマートレイアー(秋華賞2着)
ウキヨノカゼ(17戦5勝・福島牝S1着)がいる。
去年のヴィクトリアマイル(東京・芝・1600m)での成績は、
1着 2着 4着 5着 7着 8着 10着
(ストレイトガール) ミッキークイーン スマートレイアー ルージュバック ウキヨノカゼ クイーンズリング レッツゴードンキ
だった。
そして新興勢力の4歳馬には、
アドマイヤリード(13戦4勝・桜花賞5着)
ジュールポレール(9戦4勝・阪神牝S3着)
がいて、前哨戦の阪神牝馬S(阪神・芝・1400m・重)をいっしょに走っている。
そして、その成績は、
1着 2着 3着 15着
ミッキークイーン アドマイヤリード ジュールポレール クイーンズリング
だった。
「牝馬のことなら任せなさいよ」桃ちゃんは何だか上機嫌だ。
「3世代の争いなんすよ」ケンちゃんはそう説明した。
「あらっ何だか面白そうね」桃ちゃんは興味を示した。
「母が強いんだよ。姑はまあまあで、息子の嫁が元気がいい」マスターが口を挟む。
「息子の嫁が何かやらかしそうなのね」桃ちゃんは察しが良い。
「若くて伸び盛りだから走りたくってしょうがない感じかな」
オレも黙っていられない。小皿のピスタチオの皮を長くキレイな指で剥きながら
「若いとポカがあるのよね」と桃ちゃんから苦言が発せられた。
「出遅れとかか?」マスターは身を乗り出して桃ちゃんの顔を見る。
「そうそう、何かが起こるのよ、きっと」人差し指をスッと立てた。
「そんなアクシデントも若さで乗り切っちゃえばいいんだよ」
ケンちゃんは常に前向きだ。
「ポカばっかりやってつまずいてるアンタが言ってもピンと来ないわね」
桃ちゃんの言うことは常に鋭いのでケンちゃんは返す言葉がない。
どうやら週末は雨模様だ。
雨が降ったら競馬はガラリと変わる。
「そうなったらベテランの手腕が生きるって訳だ」マスターはいい展開だぞと喜ぶ。
「無謀なことはしないからね、ベテランは」オレもそれは経験していることだ。
「雨が降ったって若者が不利になることは無いでしょ」とケンちゃんは言う。
若者が、雨が降ろうが雪が降ろうがガンガン前を狙って攻める姿勢を変えないことで
ちょっとした墓穴を掘るケースが五万とあった。
アメンボのように水の上をスイスイと走れる蹄を持っているのならば兎も角
雨で湿って重くなった芝の上を走るにはそれなりの走り方が必要である。
それに比べてベテランたちは経験から重馬場の走り方が身に沁み込んでいる。
あまり力んで走ってはいけないことを身を以て知っているのである。
そんな経験値が明らかになるレースになりそうだ。
それでもケンちゃんが言うように若者が押し切るようだと牝馬古馬路線にも
一気に世代交代の波が押し寄せて来る...のである。