スナック・パドック「オークス」レース前２・後編

「桜花賞で大負けしてオークスを勝った馬なんているのかね」マスターはオレに聞く。
「メイショウマンボが１０着からだったな」オレは下調べしてあった。
「あの時は桜花賞が大外だったけどオークスでは内枠に入れたんすよ」
ケンちゃんの記憶は合っている。
「ミヤビの場合、前回も外枠、今回も外枠だからな」マスターは気になる様子だ。
「外枠の方がいいんじゃないのか、ミヤビの場合は」オレはそう見ている。
「ゴチャ付く内側を見ながら大外をグイグイ伸びて来る姿が見えて来たな」
マスターに明るい兆しが訪れたようだ。
「注目している芦毛だし、直線で突き抜けてもらいたいなぁ」
ケンちゃんの期待も膨らんでいる。

「まとめましょうよ」ケンちゃんが議長を務める。
「何でお前がまとめ役なんだ？」マスターは不満顔だ。
「この会話の中から各々に買い目を決めればいいだろ」オレはまとめが苦手だ。
「俺はあれとあれと．．．決まりだな」ケンちゃんは独り言で結論が出たようだ。
「あれっ？決まったんなら発表しろよ」マスターはそう促す。
「ひ・み・つ」ケンちゃんはウインクを投げた。
「うわっ！気持ちわるっ！」マスターは腕をさすって鳥肌を治めている。
オレはそのやり取りを見ながらニヤリと不敵な笑みを浮かべて
「男は黙ってひとりの女を指名するのさ」と決め台詞を言うと
二人は口を揃えて「似合わねぇ」と言って背中を向けた。

「女は分からねぇ」経験豊富なマスターが嘆くのも無理ならぬところであるのだが．．．。