スナック・パドック「日本ダービー」レース前

「今年の青葉賞組はやってくれそうだよな」マスターはアドミラブルにゾッコンだ。
「でも誰も勝ってない」ケンちゃんはそう言って親指を下に向ける。
「不思議だよな。１.５マイルを経験するのは大きいと思うけどな」
オレは世界七不思議のひとつに数えたいと思っている。
「デムーロが皐月賞２着馬を蹴って乗るんだから心強いじゃないか」
マスターはデムーロの判断を何のてらいも無く受け入れている。
「そこは実に気になるところだよね」ケンちゃんは腕組みをして真剣な顔だ。
「でも筋骨隆々のダービー馬っていないんだよな」オレはそこが気になっている。
「いたでしょ。ミホノブルボンが」マスターは間髪入れずに覆す。
「そうか、ブルボンがいたな」オレは間違いをすぐに認める。
「宿敵・ライスシャワーが２着だよね」ケンちゃんの情報はスマホから。
「坂路でビシビシ鍛えてるってトコも一緒だな」マスターの目は輝く。
「ダービー馬には柔軟性が欲しいな」オレは理想を持っている。
「美しく勝って欲しいっすよね」ケンちゃんも同意見だ。
「どんな勝ち方だって勝てばダービー馬なんだよ」マスターは間違っていない。

「一週前の追い切りを見る限りではサトノアーサーがいいな」
オレは直線で見せた伸びの良い走りには輝くものがあったと見た。
「毎日杯２着以来ですよ」ケンちゃんは有力視していない。
「池江厩舎は４頭出しかよ」マスターはいささか呆れている。
「音無厩舎が３頭出し。２厩舎合わせて７頭もいるんだね」
ケンちゃんも少し呆れ顔になっている。
「皐月賞１・２着馬がいてアーサーだから強烈だよな、池江厩舎陣営は」
今回のマスターの予想ではライバルとなる訳だ。
「アーサーを皐月賞に出さなかったのはなぜ？」ケンちゃんは疑問に思っている。
「てっきり皐月賞の４頭出しを自重したのか、と思ったけど、ダービーで４頭出し
して来たんだから、そうではなかったということだよな」
マスターの疑問は解決しないままだ。
「アーサーは府中向きという判断だろうな」オレはそう見ている。
「最後は必ず伸びて来る馬だからね」ケンちゃんは記憶を引っ張り出している。

「久しぶりに戻ってまいりました」久々の来店に留さんは落ち着きがない。
「死んじゃったのかと思ったぜ」そう言ってマスターはウーロンハイを作る。
「筒香が復活しましたからね」ケンちゃんは野球も詳しい。
「そうなんだよ。股関節痛めちゃってさ」留さんは自分のことのように説明する。
「なかなかホームランが出ないねぇ」オレが筒香不振を追及する。
「きのう打って４号ですからね」ケンちゃんから補足の情報が入る。
「やっぱりＷＢＣが余分なのかね」マスターが留さんの前にウーロンハイを置く。
「シーズンオフが無いっすからね」留さんはお辞儀をして受け取る。
「野球選手は野球選手の一年があってそれに合わせて調整している訳だもんな」
マスターも野球は詳しい。
「そこにＷＢＣなんてスケジュールが入れば狂っちゃうよね」
ケンちゃんはそう言ってグラスのビールを煽った。
「筒香見てて思うけど、いつも通りだったら、こんなことにはなってないだろうな」
と留さんはいつもと違う筒香を見てそう思っているのだ。
「大事なんだよ、ステップは」マスターは腕組みをして険しい顔になっている。

「サトノアーサーは真っ先に切りでしょ」ケンちゃんはステップの悪さを指摘する。
「青葉賞組をどう見るかだな」マスターは気になる。
「ステップで言えば悪くはないんじゃないか」オレはそう思っている。
「皐月賞上位馬と青葉賞組との戦いって構図かな」ケンちゃんはまとめに入る。
「やっぱり池江ｖｓ音無って構図だろ」マスターもまとめに入った。
「ベストアプローチ・藤原英厩舎なんてどうだ？」オレが穴馬を取り上げようとすると
「折角まとめに入ってるのに広げないでよ」ケンちゃんは不満顔だ。
「青葉賞２着馬だろ」マスターはアドミラブルとの勝負付けは済んでいるという意見。

「俺は筒香の背番号から２-５一点勝負だな」留さんは単純だ。
「枠連かい、馬連かい？」マスターは取り合えず確認している。
「う〜ん、枠連がいいかな」留さんは可能性を広げる。
「枠順も決まってないのに買う馬券が決まるなんて．．．それでいいの？」
ケンちゃんはかなりの呆れ顔になっている。
「いい訳ないけど、たまにはいいかも」マスターは面白がっている。

日本ダービーというお祭りだけにそんな買い方も許されるのだろうか．．．。