スナック・パドック「マーメイドＳ」レース前

「もう最近は馬柱の毛色を見るのが楽しみですよ」ケンちゃんはご機嫌だ。
「ワイド馬券的中で開眼したのか？」マスターは少々茶化す。
「だけど芦毛馬の数は少ないよね」ケンちゃんは探すのが大変だという。
「全体の１割だってさ、芦毛馬は」オレはサッと情報を入れる。
「でも、だから絞りやすいってメリットはあるよね」ケンちゃんは難しいコトは嫌いだ。
「お前向きだよ」マスターが半分鼻で笑ってそう言うと
「そう、俺向き。単細胞の俺の頭にはピッタリ」ケンちゃんは自分が分かっている。
「そうやって芦毛馬だけに絞っていけば買い目も少なくて省エネだな」
オレはケンちゃんの攻略法に理解を示した。
「そうなんすよね。エコなんすよね」ケンちゃんはご機嫌だ。
「エコだかネコだか知らねぇけど、そんなナメた買い方、通用しねぇぞ」
マスターはベテラン馬券師としての見解を述べた。
「結果を出せばいいんでしょ、結果を」ケンちゃんは少し熱くなった。

「日曜日の阪神のメイン・マーメイドＳは芦毛が２頭いるんですよ」
ケンちゃんは「鳴尾記念を再び！」を理想としている。
「そうは簡単にはいかないぞ。武豊のトーセンビクトリーがいるし、関東からも有力馬
が何頭か行くだろ」
マスターは角居厩舎の有力所と関東馬を抑えていた。
「マキシマムドパリの坂路調教を見たけど、いい動きだったな」
オレはきょうの朝、そのＶＴＲを確認していた。
「キンショーユキヒメだっていい動きなんすよ」ケンちゃんは乗って来る。
「また芦毛２頭のワイド馬券か？」マスターがグラスを丁寧に磨きながらそう言う。
「まっそういうことになりますかね」ケンちゃんは２匹目のドジョウを狙っている。
「決まれば美味しい馬券になるな」オレもオッズが気になるところだ。
「でしょ、こういうお楽しみ馬券は夢があるよね」ケンちゃんはご機嫌だ。
「夢．．．って、お前、宝クジじゃないんだぞ」マスターはさっきから機嫌が悪い。
「所詮、競馬は楽しむものですからね」ケンちゃんは顔がほころんでいる。

「マーメイドといえば海だからね」桃ちゃんは生ビールのジョッキを煽った。そして
「ハツガツオで決まりでしょ」と言ってカツオのマリネを頬張った。
「牝馬でハツガツオかよ、可哀そうだな」ケンちゃんがそう言うと
「何言ってんのよ、カツオにだって牝がいるわよ」間違いない。
「あらっ？カツオってササエさんの弟をイメージしてなかった、今？」
桃ちゃんの指摘は鋭い。ケンちゃんの頭はすっかりそのイメージだ。
「だよね。魚にだって牡牝があるよね」頭を掻いて誤魔化している。
「ハツガツオが来たら事件だな」マスターは競馬新聞を広げて確認している。

関東から遠征してレースに臨む馬が、そのハツガツオを含めて４頭いる。
ハツガツオ以外はいずれも上位人気馬となり、レースの行方を左右する存在だ。
それらが遠征の疲れでショボ暮れていたとしたら芦毛２頭にもチャンス到来である。
ケンちゃんの押す「芦毛ワイド馬券」が成立する可能性がある。

「トーセンビクトリー以外は馬じゃねぇ」
なんて言って気取ってるマスターは今のところケンちゃんの情報には耳も貸さないが
結果が付いて来ればそうも言ってられないのではと少し心配になる。

さぁ、夏前の牝馬の重賞レースの行方は如何に．．．。