590件のひとこと日記があります。
2017/06/20 21:23
スナック・パドック 「宝塚記念」その3
「キタサンブラックが負けるとしたらどんなレースになりますかね?」
ケンちゃんはそのシーンに期待を寄せている。
「これと言った逃げ馬がいないんだからブラックが逃げる展開になる」
マスターはブラックが先に行けばもうその時点で勝ちだと思っている。
「先に行かせたらシブといからな」オレもブラックに行かせたらダメ派だ。
「大外枠を引いたらどうなりますかね?」ケンちゃんがいい質問を投げた。
「阪神の芝2200mは最初の直線が長いからなぁ」オレは腕を組む。
阪神の芝2200mコースのスタート地点は外回りコースの最後の直線入口付
近になる。ゲートを出てすぐ内回りの最終コーナーと合流するような形に
なるので、一旦最後の直線部分を走ることになる。よって、1コーナーま
では500mくらい直線を走ることになる。もちろん坂を一回上ることになる。
だから、例え外枠に入ったとしても真っすぐ500m走って先頭に立てれば、
最初のコーナーはロス無く回って入って行けることになる。
「そこで作戦があるんだけど...聞く?」オレが勿体ぶって切り出すと
「聞く聞く」マスターとケンちゃんの口が揃った。
「でも条件がある。それはブラックが外に入って、先行出来る馬が内にい
る場合...だな。しかも、ブラックに近い方がいい」
オレが二人に人差し指を向けて迫る。そして、
「ブラックが前に出ようと先に先に行くが、並行して並び掛けるように内
で走って内に入れさせないように欽ちゃん走りをする。これだよ...」
オレが少し間を置いてジャックダニエルをチビリとやる。
「最初のコーナーをスムーズに回れないようにするのか」
マスターは手のひらを軽く叩いて頷いている。
「まずそこで第一の嫌がらせをする」オレは説明に力が入って来た。
「うんうん、それでそれで...」ケンちゃんの合いの手が入る。
「2コーナーでも引き続き外を膨らまさせるんだよ」
オレは第二の嫌がらせを伝えて、向う上面ではやっと先頭を譲ることを伝
える。しかし、ここで嫌がらせは終わらない。3角手前でまた激しく迫る
のが第三の嫌がらせ。ここまで来るともうブラックもかなりストレスが溜
まって来ているだろう。走るのが嫌になる頃だ。4角ではまたビッシリと
身体を寄せて嫌がらせに掛かるのだ。ここまで執拗な嫌がらせを受ければ
大概の馬はアウトだ。もう戦意喪失で走る気は無い。下手をすると最後方
まで下がってゴール、という歴史的な結末も期待できるのである。
「で、誰がそれを仕掛けるんだ?」マスターから鋭い質問が飛ぶ。
「シャケトラ?サトノクラウン?」ケンちゃんはオレの顔を覗く。
チッチッチッ!オレは人差し指を立てて小さく横に振る。
「シュヴァルグランしかいないっしょ?」オレはなぜか北海道弁になった。
そう、大魔神の馬・シュヴァルグランしかいない。
「俺が唯一キタサンブラックのライバル馬である」という自負があるのであ
れば行くのはグランしかいない。このレースで勝つか負けるかのケジメを望
むのであれば敢えてやるしかない。ライバルと言うのは少なからず必死の覚
悟でレースに臨んで雌雄を決するものである。2200mというレースの中
で前に入ったり後ろで見たりと、お互いの限界を目配せしながら、駆け引き
をしながら切磋琢磨して自分の限界に挑戦するのが本来の意味のライバル同
士の戦いということになるのだろう。
「大魔神はどう言ってるだろうね」ケンちゃんは探りを入れる。
「結構、気は優しいタイプらしいからな」
マスターは外見から受ける印象よりもソフトだと聞いたことがあるらしい。
「ここは指定席の2着でいい、ってか?」
オレはそんな単調な宝塚記念よりも波乱があるレースが見たい。
「やってもらおうよ、グランに」ケンちゃんは荒れてもらいたい口だ。
「今のブラックに立ち向かうには相当の覚悟がいるぞ」
マスターはそう言って手を横に振るが、その気になったケンちゃんは
「一発玉砕っすよ」ケンちゃんのその言葉には明日は無い。
「地に脚付いたライバルレースが見たいな」
オレは本気でグランが積極的に仕掛けるレースが見たい。
行け!グラン!ブラックのライバルはお前しかいない!頼む!グラン!
堂々としたレースでブラックを負かせるのはお前しかいないのだ。