スナック・パドック　「ローズＳ」レース前

「アドマイヤミヤビ、屈腱炎。ガクッ！」ケンちゃんの落ち込みは半端なものじゃない。
「無事でもファンディーナには敵わないだろ」マスターは皐月賞でも本命にしていた。
「ミヤビは器用な馬だからファンディーナの相手としては面白いと思っていたけどな」
オレは直線で手前を自在に代える技を持っているミヤビに注目していた。
「陣営は登録していて取り消したんだから走るつもりだったんだろ」
マスターはスポーツ誌の馬柱に載っていたのを確認している。
「骨じゃなくて腱を痛めたんだから判りにくいんだろうな」オレの推測である。
「アエロリットと並ぶ芦毛３歳牝馬期待の星だからね」ケンちゃんは唇を噛みしめている。
「惜しいコトをしたよな」マスターがポツリと慰めを言うと、
「惜しいコトって、死んだ訳じゃないからね」ケンちゃんが突然立ってカウンターに手を突いた。
「おいおい、慌てるなよ。そういう意味じゃないからさ」マスターはケンちゃんの反応に驚きの表情だ。

「桜花賞馬のレーヌミノル、２着のリスグラシューがいて、オークス２着のモズカッチャンがいるんだから、
メンバーは揃ってるよな」マスターはきょうのスポーツ誌の馬柱を眺めている。
「それでも◎はファンディーナなんだな」オレは３歳牝馬の層の厚さを感じている。
「フラワーＣの勝ち方があまりにも鮮やかだったからな」マスターの視線は脳の記憶を辿っている。
「あの時はソウルスターリングの存在が余りにも大きかったからね」ケンちゃんの見解である。
「皐月賞を勝ってれば当然オークスに行って２頭の激突が見られたハズだよな」とマスター。
「もちろん。オークスが目標だった訳だからね」ケンちゃんはリズム良く合いの手を入れる。
「あそこで狂った歯車をどう入れ替えて修正して来るかだな」
オレは高素質馬なのに一度狂った歯車を戻しきれなかった馬たちを知っている。
「ファンディーナは大丈夫さ」マスターは自信を持って言い切った。

「レーヌミノルって牝なの？」桃ちゃんはスポーツ誌の馬柱を見てそう質問して来た。
「馬主の吉岡さんの名前が實(みのる)でね、牡牝関係なく自分の持ち馬にはミノルを付けるんすよ」
とケンちゃんが説明すると、「あらヤダ。その人、センスないわね」桃ちゃんは呆れ顔だ。
「確かミノルって名前は日本で一番多い名前だったハズだな」オレのウンチクは続く。
「で、苗字で一番多いのは鈴木だから、鈴木実って姓名が一番多いハズだな」オレのウンチクではそうなる。
「ふーん、牝馬でミノルは可哀そうだわ」桃ちゃんは同情している。
「レーヌルミ、なんて名前だったら良かったのにね」ケンちゃんも同情してそう言うと
「あんたもセンス無いわね」桃ちゃんは首を傾げて渋い顔になった。そして、
「ミリッサ、なんていいわね」と気に入った馬名が目に飛び込んだようだ。
「スリランカのリゾート観光地名らしいっすね」ケンちゃんはすぐにスマホで調べた。
「お姉さんのシンハライトは、桜花賞２着、オークス優勝、ローズＳ優勝という成績だったから、ここを勝っ
て少しでもお姉さんに近づきたいだろうな」オレは血統的に楽しみだと説明した。
「ミリッサ、行けるかもね」桃ちゃんは眼光鋭く獲物に食らいつく勢いだ。

楽しみな馬が多いこのローズＳの中でも人気薄で期待している馬がいる。ブラックスビーチ(角居厩舎)である。
調教を栗東ＣＷコース(稍重)で「86.6→70.2→55.0→39.8→11.9」という時計である。時計的にはそれほど驚
くものではないが、最後の直線で伸びて来る姿がリズミカルで走るセンスを大いに感じた。鞍上との呼吸が合
っていて加速するたびに首の上げ下げのリズムがキレイに納まって行く様が美しい。この秋に成長する一頭と
して注目したい。

「アドマイヤミヤビ〜〜！」ケンちゃんは諦めきれないで馬柱を恨めしく眺めている。

「どこ行っちゃったんだよ〜〜！」どこ行く？ってケンちゃん．．．。

どこ行く、と言えば台風が心配である。今、日本に接近しつつある台風18号は「ブーメラン台風」と呼ばれ、
中国大陸に向かっていたかと思ったら９０°右に進路を変えて日本にまともに上陸しそうである。何とも迷惑
な台風である。ローズＳが行われる17日は阪神競馬場のすぐそばをその台風が通る予定である。「どの馬が勝
つのか？」という予想よりも「台風の影響はどうなのか？」という天気予想の方がはるかに気になってきた。

◎中止

ケンちゃんは「中止にだけはしないで！」と言うが、風雨激しい中での競馬は危ない。どうなるんだ？ん？