スナック・パドック　「ローズＳ」レース後

「ファンディーナで決まりだと思ったけどな」マスターは悔しい表情を浮かべている。
「皐月賞のときと同じ流れだったな」オレは４角での絶好のポジションを思い浮かべている。
「何であそこから伸びないの？」ケンちゃんは応援していた訳では無いが、気になって見ていたようだ。
「フラワーＣのときはあそこからビューンとぶっ飛んで来たよな」マスターはあのシーンが忘れられない。
「ほかの馬とはレベルが違う動きで末脚を伸ばしていたよね」ケンちゃんもあのシーンを覚えている。
「岩田も歯痒いだろうな」オレは、あとは弾けるだけのところまで持って来てゴーサインを出しても動かない
愛馬に苛立ちを覚える岩田騎手の心中が手に取るように分かる。
「体重が増えてたよね」ケンちゃんは敗因を探している。
「少し腹回りが緩かったかな」オレは自慢のクビレが見られなくなっていたのが気になった。
「パドックではうるさかったな。イラついている感じがしたぞ」マスターは不安だったようだ。

「道中は何事も無くいつものように走っていた感じがしたけどね」ケンちゃんは落ち着いて見ていた。
「口を割って行きたがる素振りも無かったしな」オレは気性の激しさを知っている。
「直線で絶好のポジションにいてズルズルと下がる姿は印象悪いな」マスターは秋華賞では買わないらしい。
「勝ったのはラビットラン。８番人気の馬っすよ」ケンちゃんはその馬の情報を持っていない。
「500万下を勝ったばかりの上り馬だな。さすが角居厩舎」マスターはスマホで調べている。
「これじゃぁ秋華賞はソウルスターリングの独壇場になりそうだな」誰だってそう思うだろう。
「ファンディーナがフラワーＣ並みのレースで勝ってこそ盛り上がる訳だったんだよ」
マスターはワクワクする三冠レースが見たかったのだ。これじゃぁ白ける一方である。
「しかし、リスグラシューは誰と走っても３着辺りっすね」ケンちゃんはそっちに注目した。
「とにかく切れる脚が無いのでジリジリと上がって来るからな」マスターはヒモに狙っていた。
「武豊の考え通りのレースだったんじゃないの」どう見ても無理をしていない。
「手固いコトだよ」マスターは権利はもう十分にあるんだから他の馬に譲れないのかと言う。

「ミリッサは４着だったね」ケンちゃんは結果を桃ちゃんに報告した。
「知ってるわよ。見てたし」桃ちゃんは珍しく実況を見ていたらしい。
「ゴール前は同じ勝負服の２頭が一緒に上がって来たからな」マスターもテレビで実況を見ていた。
「しかも同枠だったから武豊は染め分け帽をかぶっていたよな」オレはあの派手な帽子が印象に残った。
「何、それ？」桃ちゃんはチンプンカンプンのようだ。
「同じ枠で同じ勝負服の場合は区別が付かないから帽子を違えるんだ」マスターが優しく説明をする。
「重い馬番の方が半分白で染めた帽子をかぶるんだよ」オレも優しく補足した。
「うんうん、そんな帽子の騎手がいたわね」桃ちゃんは覚えていた。
「紅白だからお目出度いよな」マスターは縁起物だと言って笑っている。
「そんな目出度い結果にはならなかったじゃない」桃ちゃんはあまり機嫌がよろしくない。

ソウルスターリングは元気だろうか？。あのオークスのレース内容からして名牝として名を残す馬に成長する
ものと確信している。バランスの良さ、走りの安定度、落ち着いた性格．．．どこから見ても欠点らしいもの
が見当たらない。最大のライバルと目されていたファンディーナがこんなレースをしているようではどんどん
実力の差は開いて行ってしまう。秋の３歳牝馬路線は「一強」となり、牝馬古馬の中に入ってもガンガンやれ
そうな気がする。そして、来年になったらもっと成長して牡馬の一流どころに入っても遜色なく走って結果を
残すのではないかと期待してしまうのである。大いに楽しみである。

「ブラックスビーチはどうだったんだ？」マスターはオレに振って来た。
「先行していい感じで走っていたんだけどな」オレは途中まで大いに期待をして見ていた。
「最後の直線に入ったらバッタリ止まったっすね」ケンちゃんの言う通りだった。
「道中一生懸命に走り過ぎだな。息を抜くタイミングが全然分かっちゃいないな」経験不足がもろに出た。
まっ、素質はありそうだから今後に期待しようではないか。

しかし、秋の３歳牝馬路線を占う重要なレースだと思っていたが、結果は見ての通りつまらないレースになっ
てしまった。とても残念であったが現実は現実として受け止め、この結果を今後に生かすしかないのである。