スナック・パドック　「毎日王冠」　レース後

「きょうはパァ〜っと行ってくれ〜！」きょうはオレの振る舞い酒の日だ。
「いや〜、お見事だよ。調教推奨馬二頭でバッチリ決まったからな」マスターは大いに盛り上げる。
「さすがですよ、ヤッパ目の付け所が違うなと常々思ってたんすよ」ケンちゃんもニッコリ笑顔でおだてる。
「きょうは豚レバーのいいトコをマスターに用意してもらったからガンガン食ってくれ」オレは上機嫌だ。
そして「生で食えるほど生きの良いヤツだから超レアで行こうぜ、マスター」オレのテンションは上がる。
「合点承知！串に刺して食べやすくしておいたからさ」マスターは七輪に炭火を起こして用意万端である。
「さぁ焼くぞ〜！」マスターは顔を真っ赤にして焼き始める。「もういいよ」オレは網に乗せる間もなく上げ
ろと指示して皿に乗っけてもらう。まだ赤い。「大丈夫なの？」ケンちゃんは不安顔だ。「刺身で食えるって
言うんだから全然平気」オレはパクリと串に付いているレバー全部を一気に口に頬張る。美味い！美味過ぎる！
プリプリして歯応え十分で満足である。甘い。レバー独特の甘みが広がる。実に美味い。ジョッキの生ビール
を一気に煽る。きょうはレバー焼き故に生ビールを飲んでいる。カァ〜！美味い！このために生きてるな。
実感である。見ているとケンちゃんはお新香ばかりつまんでレバーを食おうとしない。「あれっ？お前、レバー
食わねぇのか？」オレはそれが気に入らない。「オレの振る舞いレバーだぞ。食え！」半強制的だ。「ダメっす
よ、ダメダメ。レバーは食えないっすよ」ケンちゃんは逃げる。「お前が食えないレバーは焼き過ぎてボソボソ
になったレバーだろ。このレバーはそれとは次元が違う味なんだ。騙されたと思って食ってみろ」オレが一串
差し出す。渋々ケンちゃんはそれを受け取る。だがなかなか口が串に寄らない。「行けよ」ケンちゃんの鼻先に
人差し指を突き刺してゴーサインを出す。ケンちゃんは恐る恐る口をレバーに近づけて端っこをチョロリとかじ
った。「ん？あれっ？」と言っていつものレバーと違うことに気が付く。一塊をパクリと行った。噛んだ。
「あれっ？これレバー？」ケンちゃんは驚きの表情に変わった。「あれっ？これ美味い！」パクパクと一串を
平らげた。「レバー、美味い！」ケンちゃんのレバー嫌いは吹っ飛んだ。そして、レバー大好き青年がひとり
誕生した。「だろ」オレはこの美味さを分かる人間がひとり増えたことに満足している。

リアルスティールは落ち着いていた。最後のコーナーを回って手前を右に代えて、府中の長い直線を右手前の
まま走り抜けた。サトノアラジンは残り300ｍのところで手前を右に代えて少しスティールに離された。すぐに
左手前に代えてラストスパートを見せたが事既に遅しでクビ差届かなかった。右手前で強い走りが出来るステ
ィールは正に府中の申し子である。アラジンがもっとスムーズに手前を代えることの出来る馬に成長すれば
今よりももっと強い馬に成る。きょうはその差が出てしまった。

「ソウルスターリングは逃げたのにダメだったわね」桃ちゃんは少しがっかりしている。
「オークスみたいにはウマく行かなかったな」マスターも大いに残念に思っている。
「やっぱり相手が違ったっすよ今回は」ケンちゃんは中学生ではまだ無理だと言う。
「直線に入ってまったく余裕が無かったな、今回は」オレもあの失速は見たくなかった。
「このあと、どうするのかね？」マスターは大いに心配するのである。
「エリ女で再スタートじゃないっすかね」ケンちゃんは軌道修正を勧める。
「今回のこの挑戦は藤沢和雄調教師の相馬眼の無さと言われてもしょうがないだろうな」オレはそう見る。
「無理することは無かったよな」マスターも素直にそう見る。
「良く分かんないけど少女に辛い思いをさせる大人は許せないわね」桃ちゃんのひと言は重い。

フランケル産駒は早熟なのだろうか？この夏の成長がまるで見られなかった。

期待が大きかった分、落胆は大きい。

引退？

アムロちゃんのマネなんかしなくていいんだぞ。