スナック・パドック　「秋華賞」　レース前

「アエロリットの頭は動かないっすよ」と芦毛の３歳マイル女王登場にケンちゃんは自信満々だ。
「単勝で３倍からあるのか？美味しいよな」マスターも頭で狙っている。
「桜花賞で関西遠征は経験済みだし、距離も芝1800ｍで強い勝ち方をしているから大丈夫だろうな」
不安が見当たらない芦毛の人気馬にオレも文句は無い。今回も強い勝ち方のレースを期待している。
「２着にポールヴァンドルが来て、芦毛馬ワンツーが決まれば俺はもう死んでもいいっす」とケンちゃん。
「心にも無いコト言うな。だし、２着に来る馬は違う馬だから心配するな」マスターは呆れ顔である。
「タガノヴェローナが来たりしてね」ケンちゃんはペロリと舌を出した。
「お前なぁ．．．どこまで芦毛馬に入れ込んでんだ。いい加減にしろよ」マスターは怒っている。

「ヴゼットジョリーが気になるわね」桃ちゃんがスポーツ誌の馬柱から探し出した。
「えっ？何が気になる訳？」ケンちゃんは驚きの余り素っ頓狂な声になった。
「ヴゼットジョリーって名前の響きがいいじゃないの」桃ちゃんはそこに反応した。
「フランスのシャンソンの曲名で”あなたは美しいですね”って意味らしいっすよ」
ケンちゃんはすぐにスマホで調べた。
「アザブジュウバン〜」マスターは両手広げておフランス気分だ。
桃ちゃんも一緒に両手を広げたがこっちは首を傾げて呆れ顔である。

ヴゼットジョリーは、新潟３歳Ｓ(新潟・芝1600ｍ)の勝馬である。黒鹿毛のスンナリした曲線が美しいプロポー
ション抜群のお嬢様である。お尻がやや小さめなところがモデルさながらの雰囲気を醸し出している。がしかし
、この尻の小ささが競走馬としてはやや気になるところである。厩舎関係者は「阪神の坂が苦手」と言っている
。急坂に差し掛かるとスピードがガクンと落ちてしまうのだろう。このコトと尻の小ささは大いに関係があると
オレは見ている。牝馬としては、２歳牝馬女王を決める阪神ジュベナイルＦから最初のクラシックレース・桜花
賞までは阪神競馬場が主戦場となるのは致し方ないところ。どうやら阪神競馬場では実力が発揮できないようで
同時に体調も崩してしまったようだ。夏場は牧場でじっくり体調を整えた。そして、牝馬最後のクラシック・
秋華賞に標準を定めた。ステップレースを何にしようか、陣営は考えた。阪神は避けたいが関東に遠征してまで
負担を掛けたくはない。京都で走らせたいが良いレースもないし何より連闘でクラシックに臨むというリスクが
生じてしまう。ローズＳ(阪神・芝1800ｍ)という手もあったが、４回阪神最終日のポートアイランドＳ(阪神・
芝1600ｍ)を選んだ。古馬と混合のオープン特別である。あくまでもステップレースである。レースで走らせる
というのが目的である。鞍上には本番で乗る菱田がいる。当日の馬体重は「472kg(+16)」だった。これは新潟３
歳Ｓを勝った時が「470kg」であるから戻ったということである。スタートは順調に出た。問題はレース前半の
折り合いである。行きたがるジョリーを菱田は懸命に手綱を絞って抑えている。ケンカするほどではない。巧く
なだめている。２番手にいたポジションを３角に入るときには４番手にまで下げていた。折り合っていた。直線
を向いて急坂に来たときに苦し紛れに手前を代えたがフットワークに大きな乱れは無く懸命に走った。結果は５
着だった。良し！体調は戻り走る気持ちに衰えは無い。行ける！陣営は俄然やる気になった。

「リスグラシューはどうなんだ？」マスターはオレの顔を見る。
「調子落ちは無いよな。坂路をリズミカルに登って来ているよ」オレは調教ＶＴＲでの動きを報告した。
「でも、ここのところ勝てないレースが続いてるよね」ケンちゃんは歯がゆいレースを見て来ている。
「最後は必ず伸びてるんだけど届かないよな」マスターも歯がゆい思いで見ているようだ。
「レース展開頼りの馬だからな。前が止まる展開になればこの馬の末脚は恐ろしいものがある」とオレ。
「カワキタエンカの逃げに突っかける馬がいるかだな」マスターは展開を読む。
「京都の内回り芝2000ｍはメインスタンド前からスタートするから引っかかる馬がいるかもな」とオレ。
「誰？誰？」ケンちゃんはスマホの馬柱を追う。「アエロリットじゃないよね？」心配顔になる。
「外枠に入ったら可能性はあるな」オレはファンの声援が近い外枠に入った馬には注意が必要だと思っている。

体操世界選手権・床での村上茉愛ちゃんのように華麗なる動きを魅せてクラシック最後のレースで金メダルを
捕るのはどの馬なのだろうか。興味津々である。