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2017/10/16 20:54
スナック・パドック 「菊花賞」 レース前・その1
「何が一番人気かね」マスターはグラスを磨きながらポツリと呟いた。
「あれっ!キセキ、出るの?」オレはスポーツ誌の馬柱を見て驚きの表情を浮かべた。
「そうそう、出るんだってさ」マスターは嬉しそうにそう言った。
「皐月賞馬っすからね、アルアインでしょ」ケンちゃんは格を重んじてそう言った。
「勝ったと思ったセントライト記念でアッサリ交わされたからな」マスターの診断は辛い。
「やっぱりキセキってことになるのかな」オレは実力馬のいないメンバーでは止むを得ないと思った。
「そうだろ、そうだろ、そうなるんだよ」マスターはキセキのオーソドックスな競馬スタイルが好きだと言う。
「雨っすね。また土日は雨らしいっす」ケンちゃんは秋華賞で痛い目にあったので暗い表情になった。
「台風が来てるらしいじゃないか」オレは天気予報を聞いていて情報を得ていた。
「ジャンジャン降りかい?」マスターの表情が少し険しくなった。
「グジャグジャの京都競馬場か...」オレは少し遠くを見てジャックダニエルをチビリとやった。
1976年の菊花賞は前日に降った雨の影響で泥んこの馬場状態だった。皐月賞馬・トウショウボーイ、ダービー馬
・クライムカイザーの2頭一騎打ちと目されたレースだった。この2頭は単枠指定を受けて、21頭立ての馬柱は
いままで見た事の無い並びとなった。何せ単枠指定馬が2頭いるのはこの菊花賞が最初のレースであった。3番
人気には貴公子・テンポイントの名前があった。ダービー(7着)で骨折したあとに、京都大賞典で復活したもの
の3着という成績であったがファンの期待は薄れていなかった。レースは重馬場ということもあり、ゆったりと
したペースで進み、最後の直線に向いたときに1番人気・トウショウボーイが先頭に躍り出てゴールを目指す。
そこへ関西の雄・テンポイントが泥んこになりながら敢然と末脚を伸ばしてトウショウボーイを捕えてトップに
立つ。テンポイントが最後のクラシックを手中にしたかと思った瞬間に内をスルスルとさらに末脚を伸ばした馬
がいた。グリーングラスだった。泥まみれの勝負服、帽子、ゼッケンで何が飛んで来たのか分からなかった。そ
の末脚は見事でテンポイントに2馬身半差も付けて抜出していた。さらに2馬身半差の3着にトウショウボーイ
が入線して「TTG時代」と言われる名勝負はここからがスタートだった。
「泥んこで走るのは嫌だわ」桃ちゃんは眉間にしわを寄せて嫌がった。
「泥が目に入ったらもうジエンドっす」ケンちゃんは幼稚園の運動会で経験しているらしい。
「そんな小さい目に泥が入るのか?」マスターのケンちゃんイジメが始まった。
「そうよ、小豆くらいの小さな目に泥なんか入らないでしょうに」桃ちゃんはマスターに乗っかる。
「ふん!小さな目で悪かったね。でもこのつぶらな瞳が可愛いって言ってくれる...まっいいか」
ケンちゃんが話を途中で止めた。
「あれっ?お前、彼女いたの?」マスターは初耳の話だ。
「いますよ、彼女の二人や三人は」ケンちゃんはムキになる。
「そんなにいるの?一人に絞りなさいよ」桃ちゃんは不謹慎だと言う。
ケンちゃんは彼女を絞れないでいるが、今年の菊花賞は絞りたいものだ。
「キセキでいいだろ」マスターはもう絞ったようである。
「菊花賞向きかどうかは分からないけどサトノアーサーのフォームはピカ一なんだよな」オレは惚の字だ。
「ポポカテペトルから入ろうかな」ケンちゃんは恐る恐る発表した。
「また芦毛か!いい加減にしろよ!」マスターは先週で凝りている。
「泥んこ馬場に芦毛馬。似合わないと思うが結構来るんだぜ」
オレはケンちゃんにそっと耳打ちして情報を入れると、
「そうでしょ、そうでしょ」とケンちゃんは乗って来た。
「勝つ馬が分かったぞ」とマスター。そして「一番枠に入った馬が勝つ!」と宣言した。
「キクは一ときのハジ」と言うではないか...だとさ。