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2017/10/26 18:26
スナック・パドック 「天皇賞・秋」 レース前・その2
「寒くなって来たなぁ」カウンターに座っていると膝小僧が冷える。
「まだ本格的な暖房は要らないだろ」とマスターは店の奥の物置から小型のストーブを引っ張り出して来た。
「すぐ点けるんすか。じゃぁ俺、少し外に行きますね」と言ってケンちゃんは外へ出て行った。
「燃料を入れたまま仕舞ったんだな、少し灯油が残ってるよ」とマスターはそのまま火を点けようとする。
「大丈夫かい?燃料、入れ替えた方がいいんじゃないか?」オレは少し心配になった。
「平気だよ、平気。何回も経験してるから大丈夫だよ」マスターは構わずマッチの火を芯に点けた。
最初だけ黒い煙が少し上がったが、概ね順調にストーブに火が点いた。
「おぉ、暖かいな。やっぱり冬はストーブが一番だな」マスターはストーブに手をかざしてそう言った。
「まだ冬には少し早いけどね」オレもストーブの熱を受けて、少し早いが冬の到来を感じている。
「もういいっすかね」ケンちゃんが外から戻って来た。
「何だよお前、何しに外へ行ったんだよ」マスターは怪訝そうな顔でそう聞くと
「俺、あの匂いがダメなんすよ。頭がクラクラするんすよ」ケンちゃんは軽い酸欠に陥るらしい。
「結構、繊細なんだなお前」マスターは軽く突っ込む。
「あれっ?今頃?十分分かってたでしょうに」ケンちゃんは少し不満だ。
「まっ、人それぞれの感性を持って生きている訳だからさ」オレは深入りをしない。
「天皇賞・秋は、サトノアラジン(牡6)で行こうと思う」オレはハッキリと宣言した。
「おぉ!アラジンっすか。毎日王冠であと200mあったら勝ってたっすかね」ケンちゃんは想像する。
「どうなんだ?」マスターは合いの手よろしくオレに振って来た。
「リアルもアラジンも力を出し切ったって感じだったけど、アラジンの方が伸びていた気がする」
アラジンの方が体力はありそうなので伸びしろは大きいと思うのである。
レースは、前半は後方でじっくり脚を貯めて、3角から4角でペースを上げて大外を回して直線勝負に賭けると
いう型を持った。前走の毎日王冠(東京・芝1800m)では、しっかりとこの型を決めて、リアルスティール(牡5)
との競り合いでわずかに届かずの2着だった。前々走の安田記念(東京・芝1600m)も見事にレースをこの型にハ
メて前を行くロゴタイプ(牡7)をゴール前で捕えて優勝を飾った。絶好調芦毛馬のレッドファルクス(牡6)を3
着に抑えての価値あるものだった。今回は回りに先に行く馬がいない7枠14番という絶好のゲート位置を引き当
てた。これはレースを自分の型に持ち込むには持って来いである。鞍上は乗り慣れた川田騎手である。迷いの無
い人馬一体の騎乗が期待できる。今からレースが楽しみである。
「マスター、ストーブの温もりが快適だね」とオレが褒める。
「そうかい、そりゃぁ良かった」とマスターがニコリと笑う。
「ところで、マスター。このストーブのメーカーは何だい?」とオレが聞く。
「そりやぁ、あんた、、、アラジンですぜ」マスターは答えを溜めに溜めた。
「よっ!待ってました!パドック屋!」オレは手でメガホンを作って大向こうよろしく掛け声をかける。
サトノアラジン、よっ!待ってました! 府中の長い直線を見事に伸びる。