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2017/10/30 23:29
スナック・パドック 「アルゼンチン共和国杯」 レース前・その1
「お前、何派?」マスターは藪から棒にケンちゃんに問う。
「何派ってなんのコトっすか?」ケンちゃんは何が何やら見当が付かない。
「この店で何?って聞いたら競馬のコトだろうよ」マスターはテーブルをダスターで拭きながら言う。
「競馬で何派?って聞かれて何て答えればいいんすかね?」ケンちゃんはまだ真意がつかめないでいる。
「何を基にして馬券を買うかってコトを聞いてるんだよ」マスターは具体的に説明した。
「あぁ、そういうコトっすか」ケンちゃんは要約合点がいった。「データ派っすかね」と答えた。
「お前は現場に行かないからな」マスターはそう言いながらスポーツ誌を広げる。
「あれっ?マスターだって現場行かないっすよね」ケンちゃんがそう言うと
「最近は行かないけど、昔行ってたときの見方ってのが今生きてる訳だわな」マスターは自慢げに言う。
「どう生きてるんすか?」ケンちゃんは突っ込む。
「そりゃぁお前、走るフォームとかフットワークの軽快さとか...キリがないくらい見るところはあるぞ」
とマスターが話に乗って来た。「それからなぁ...」話は長くなりそうだ。
「今は家にいながらにしてパドックが見れるからな」オレはインターネットで配信される映像を見ている。
「締め切り時間もギリギリまで受け付けるよな」マスターはスマホで馬券を購入している。
「だけどマスターは結構前に買っちゃうじゃないっすか」ケンちゃんは先日の天皇賞・秋の時の話をする。
「そりゃぁお前、買う馬が決まってる時は早いさ」マスターは決め打ちをする方だ。
「だけど、その馬がゲートに入るまで何が起こるか分からないじゃないか」オレはギリギリまで見たい方だ。
「何かあったら出走取り消しになるだろ」マスターは結構楽観的だ。
「俺も早く決めちゃいたい方っすね」自称データ派は迷うのが嫌だと言う。
「迷ってる訳じゃないんだよ。見れるトコまで馬の一挙手一投足を見届けたいんだな」とオレ。
「まっ、知ってる馬が走る時と知らない馬が走る時じゃぁ見方が変わるよな」マスターから経験談が出る。
「現場に行くと忙しいよな」オレは広い競馬場を動きまくる。
「何が忙しいんだ?ビール呑んで焼きそば食って馬券買って楽しめばそれでいいだろ」とマスター。
「あれっ?さっき馬の見方なんかを話してたっすよね」ケンちゃんから鋭い突っ込みが出る。
「まっ、見てるようで見てないってのが本音さ」マスターから驚きの発言が出た。
「あれっ?競馬場に行って馬見ないんすか?」ケンちゃんから当然の質問が投げられる。
「馬は見たって迷うだけだぞ。ヘロヘロ歩いてるなって馬がビューンと走って勝っちゃうし、ハアハア言って
気合満点の馬が尻走ってたりするからな。見たって判断できないぞ」とマスターは自分には相馬眼が無いと言う。
「そうだけど、競馬場行ったら、ヤッパ見るでしょ馬を、見なきゃダメでしょ馬を」ケンちゃんは正論を吐く。
「競馬場は馬を見るためにあるんじゃないのか」オレはポポの山崎12年をチビリとやる。そして、
「競馬場は馬に会いたいから行くんじゃないのか」そう言ってため息をひとつ附いた。
「わたしは直感派ね」桃ちゃんは牝馬しか応援しないのにそんなコトを言う。
「女の直感は鋭いって言うっすからね」ケンちゃんは桃ちゃんを立てる。
「あんた、わたしがここで発表した馬を買ったことないでしょ」桃ちゃんはケンちゃんに迫る。
「えっ、あれっ、ええっと...。そんなコトないっすよ」ケンちゃんはたじろぐ。
「いや、絶対に買ってない。直感で分かるもの」桃ちゃんは長い人差し指でケンちゃんを指す。
「さすが直感派だな。いいトコ見てるよ」マスターは感心して桃ちゃんを見る。
「こ、今度は買いますよ」ケンちゃんは男の約束をした。
「今週は何のレースがあるの?」桃ちゃんはスポーツ誌の競馬欄を開いた。
「アルゼンチン共和国杯っすよ」とケンちゃんが教えると「アルゼンチン?」と桃ちゃんは顔を赤くした。
「おやおや、チンに反応したのかい?」とマスターが嫌らしい顔になる。
「ソールインパクト、だってなにこれ〜」と言ってケンちゃんの頭をポカポカ叩いた。
訳が分からないが、どうやらアルゼンチン共和国杯は乱れるレースとなりそうな気配である。