スナック・パドック　「マイルＣＳ」　レース前・その２

「人気が割れてるなぁ」マスターはスポーツ誌の印を見てポツリと呟いた。
「やっぱりボニータが一番人気だろ」オレは実績＋前走の頑張りにファンの支持が集まっていると思っている。
「ファルクスが３番人気なのはやっぱり距離を心配しているんすよね」ケンちゃんもそこが気になっている。
「体型や今の調子を見ると単なる短距離馬とは思えないけどな」オレはファルクスを見る度にそう思う。
「安田記念の最後の伸びは凄かったからな」マスターは悔しい思いをしている。
「４番人気はアラジンっすね」ケンちゃんはそう言って山崎12年をチビリとやる。
「天皇賞・秋はカラッきしだったからな」オレは応援していただけにガッカリの結果だった。
「雨が全てだろ」マスターは全然伸びないあの走りを見てそう思ったようだ。
「調教での動きは相変わらず反応の良い動きを見せているから落ち込んじゃいないな」オレはそう見た。
「安田記念を勝っているんすからマイルの適性は一番でしょ」ケンちゃんは実力を認めている。
「５番人気はペルシアンナイトだな」マスターはスポーツ誌の馬柱を指で叩いてそう言った。
「これは楽しみだぞ。左手前の時の肩の動きが大きくてスムーズな点が魅力だな」オレは特長を伝えた。
「右回りコースの最後の末脚は左手前の爆発っすからね」ケンちゃんもかなり勉強を積んで来た。
「エリ女のレイアーの報告といっしょだな」マスターには少し信用性を落としているようだ。
「あれは展開のアヤだからさ」オレは言い訳をする。
「次は逃げ馬・アポジーっすね」ケンちゃんは展開のキーマンを上げる。
「スタートが問題なんだろ？」マスターはゲートの出の悪さを気にする。
「二の脚の使いどころが運命の分かれ道となるな」オレは何も逃げにこだわることは無いと思っている。
「向う正面からのマクリ競馬っすか？」ケンちゃんは粋な言葉を知っていた。
「それ、格好いいよな」マスターもその流れがファンを喜ばせるのを知っている。
「そうなると、いいな。でも、あの騎手にそんなアイディアは無いな」オレはバッサリと切り捨てた。

「ところで、２番人気のエアスピネルを忘れてないか？」マスターは忘れものに気が付いた。
「前走は土砂降りの雨の中、見事な勝利だったっすよね」ケンちゃんはこの間の出来事を思い出している。
「道悪巧者、左回り巧者。スピネルにとって有利な条件が揃ったレースだったな」オレはそう見ている。
「今度は条件がまったく違うっすからね」ケンちゃんにとっても気になる存在である。
「調教での動きはどうだったんだ？」マスターは大いに気になる様子だ。
「相変わらず安定した動きで栗東坂路コースを駆け上がって来たな。でも．．．」オレはそう言って一拍置く。
「でも、何だよ！」マスターは身を乗り出して突っ込む。
「フィニッシュで前回よりもキレが無かったな」オレがそう言うと、
「前走時の疲れが残ってるんすかね？」ケンちゃんはそう言って少し喜びの表情を浮かべた。
「お前は何で嬉しそうなんだ？」マスターからケンちゃんに突っ込みが入った。
「相手候補が減るのは嬉しいっす」ケンちゃんの素直な気持ちだ。そして、
「しかも、武豊が乗れなくてムーアになるようっすね」ケンちゃんから情報が追加された。
「ムーアだと減点になるのか？」マスターから鋭い観点が返って来た。
「最近の武豊は公私ともに緩いからな」オレもマスターの考え方に賛同する。
「じゃぁ相手候補に残しますよ」ケンちゃんはそう言って少し不満顔になった。
「全てを考慮して蹴っ飛ばしで行こうぜ」オレは２番人気蹴りを提案した。
「合点承知！」二人から威勢のいい言葉が発せられた。

「グランシルク、なんて面白いんじゃないか？」オレは穴馬中の穴馬を上げた。
「末脚がハマればな」マスターは余り気が無いようだ。
「末脚の鋭さじゃファルクスに敵う訳無いでしょ」ケンちゃんの見解は正しいのだろう。
「田辺が上手に乗れば分からんぞ」オレは負け惜しみでそう言ったものの相手にされない。

「何かケン坊の考え方が一番光ってるようだな」マスターはいつに無くケンちゃんを立てた。
「でしょ、ファルクス頭で間違いないっすよ」ケンちゃんは胸を張って勝ち誇った。
「スプリンターズＳの再現なるか、だな」オレもケンちゃんの考え方に賛成してスッキリした。

さぁ、マイル王決定戦の始まり始まり〜！である。まぎれの無いスマートな決着を願う。