スナック・パドック　「ジャパンＣ」　レース前

「実はオレ、キタサンブラックはオグリキャップるんじゃないかと見ていたんだ」とオレが爆弾発言である。
「オグリキャップる、って．．．まさかあれか？」マスターは感がいい。指を使って６と11と１を示した。
「何すか？」ケンちゃんは知らない情報である。実はその前の年にはイナリワンが同じ成績だった。
「天皇賞・秋が６着でジャパンＣが11着と来て、有馬記念で優勝するんだ」オレはすぐに謎解きをした。
「そして引退っすか」ケンちゃんは話を締めくくったつもりだ。
「キタサンブラックがあと３戦で引退って発表した時に、なぜかこの成績パターンが浮かんだ訳さ」とオレ。
「そりゃぁとんでもない話だぞ。そんなコトを思ったのは全国でもお前だけだろ」とマスターは不満顔だ。
「あの悪天候の中のレースだったっすからね。ある意味何が起こるか分からない状態は状態だったっすよ」
ケンちゃんも言われてみればそういう展開も有りだったかなと少し思ったようだ。
「そんな話はあさってしやがれってもんだぞ。実際、堂々の優勝だった訳だから、その話は俺の前ではするな」
マスターは今年一番の不機嫌な顔をした。ジャパンＣも優勝することしか考えていない。

「しかし、ブラックの最終追切りは緩かったな」オレはさっき見た調教ＶＴＲが不満である。
「そうか？あんなもんでいいんだろ。余裕ですよ、余裕」マスターはマイナス材料に耳を貸さない。
「鞍上が緩いっすから馬にも伝染したんすかね」ケンちゃんは上手いコトを言った。座布団を３枚やろう。
「まっお姉ちゃんでは失敗したけど、ブラックに跨ればビシッと締まるんだよ」マスターはあくまでも強気だ。
「確かに天皇賞・秋のゲートの出し方は武豊ならではだったけどな．．．」オレもあれはナイスだったと思う。
「捕まってれば勝てるってもっぱらの評判らしいっすよ」ケンちゃんはどうしてマスターを怒らすのだろうか。
「お前なぁ、言っていいコトと悪いコトがあるんだぞ。ブラックの悪口はここでは禁止だ」とマスター。

「牝馬はソウルスターリングだけなの？」桃ちゃんはジョッキの生中を一気に煽る。グホッ！ゲップである。
「そうっすね。外国馬には牝馬はいないっす」とケンちゃんは報告した。
「で、どうなの？スターリングの調子は？」桃ちゃんの情報集めはいつも他人任せである。
「いいぞ。秋になって一番いいな」オレは最後の直線での伸び脚を作っているフットワークを褒めた。
「オークスと同じ距離を走る訳っすからイメージとしていいっすよね」とケンちゃんは前向きである。
「それを言うならレイデオロにはダービーと同じだぞ」マスターにとっては気になる存在の馬である。
「先週のペルシアンナイトが俄然３歳馬の質を上げたからな」オレはレイデオロが人気を集めている要因を解く
「それを言うならスターリングだって３歳馬でしょ」桃ちゃんもしっかり話に加わっている。
「唯一ＪＣ連覇を成し遂げているジェンティルドンナは３歳で最初の勝利を上げているんすよ」とケンちゃん。
「あんた、いいデータ持ってるじゃないのよ」桃ちゃんはケンちゃんを褒めるが、褒めるほどのコトではない。
「ドンナはその年の牝馬３冠馬だからな。で、前の年に牡馬３冠馬のオルフェーヴルを負かしちゃったんだから
凄い馬だったよ」オレはあの時の感動を蘇らせている。
「スターリングはそれだけの実績が無いからダメだって言いたいの？」桃ちゃんはオレの話をそう受け取った。
「スターリングにはそれくらいの実力はあると思うっす」ケンちゃんは桃ちゃんの応援をする。
「そうでしょ、そう思うのよわたしも」桃ちゃんはケンちゃんの手を両手で握って目を潤ませている。
「そろそろ危ないぞ」オレはマスターに小声で注意信号を発した。桃ちゃんが危険領域に達しました。

調教の動きが良かったのはソウルスターリングだけではない。シュヴァルグランも軽快な動きを披露している。
外国勢では人気は無いがブームタイム(牡６・オーストラリア)が良く見えた。身体付きやフットワークから日本
の馬場に合っているように思う。芝2400ｍが守備範囲で得意としているようだ。アゴ脚付きの観光旅行ついでの
レースだが馬にとってはいつもと同じ。芝の状態を見て「あれっ？芝はどこにあるんだ？ダートコースなのか？」
と言った関係者がいたと聞く。それほど日本の競馬場の芝は刈られていて短いという嫌味な話である。こんなと
ころで走らせて脚を痛めては元も子もないぞ、と言うのが本音だと聞く。日本の関係者はそのコトを馬耳東風で
は進歩が無いのだが．．．。ケガする馬が無いことを切に祈る。