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2017/11/26 18:01
スナック・パドック 「ジャパンC」 レース後
「おいおい、お前らがうるさいコト言ってるからホントに負けちゃったよ」マスターは半ば泣きそうである。
「やっぱりね。今の武豊はどこかおかしいっすよ」ケンちゃんは頷きながらそう言う。
「きょうのブラックはどこかいつもと違う姿に見えたな」パドックでの動きがオレにはそう映った。
「どこがどう違ったんすか?」ケンちゃんはすかさず突っ込んで来る。
「身体の曲線がいつもだともっとキレイな線を描いているのに何か角ばってたな」とオレは芸術家気取りである
「そんなコトが影響するのか?」マスターはかなり気分が悪い様子だ。
「まっ、オレ独自の感覚的なモノだからさ」オレは根拠の無い話で申し訳ないと謝った。
「去年のJCとほとんど同じ展開でレースは進んだよな」マスターは勝てなかった理由がまだ分からないでいる
「ブラックは去年も逃げたからな」オレはまるで去年のレースを見ているような錯覚を覚えながら観戦した。
「去年は2:25.8で、今年は2:23.7っすね。2秒も速いっす」ケンちゃんはすかさず時計に注目した。
「ブラックの上りは去年が34.7秒で、今年は35.3秒だな」マスターは上りの時計を発表した。
「明らかに今年の方のペースが速かったんだな」オレは敗因がそこにあったことを見抜いた。
「やっぱり武豊のどこかに狂いが生じてるんすよ」ケンちゃんはどうしてもそこを突く。
「マイペースで走ってたように見えたけどなぁ」マスターは何としても納得がいかない。
「武豊ひとりで作るペース配分でレースが流れた訳だから感覚が狂ったとしか言いようが無いよな」とオレ。
「そうっす、誰かが突っかけた訳でもないし、ブラックが掛かった訳でもないっすからね」とケンちゃん。
「クソ〜っ!何でこうなるんだ〜!」マスターは厨房の壁に思いっきり言葉をぶつけた。
「スターリングは何着だったの?」相変わらず桃ちゃんは実況を見ていない。
「7着っすよ」ケンちゃんはすかさず返答する。
「ブラックに勝って欲しかったわね」桃ちゃんは強いものに立ち向かう少女の姿を想像していた。
「おいおい、桃ちゃんまで俺をいじめるなよ」マスターの心の傷は相当深い。
「桃さんにとって武豊ってどんな人なんすか?」とケンちゃんは探りを入れる。
「武豊?競馬リポーターに手を出した人でしょ」桃ちゃんにもその情報は届いている。
「最近なんだかおかしいんすよ、武豊」ケンちゃんは桃ちゃんにもそれを理解してもらいたいと思ったようだ。
「何が?」桃ちゃんはブラックに乗っていたのが武豊だとは知らない。
「あの週刊誌ネタの影響が競馬にも出てるんすよ」ケンちゃんは仲間を増やそうとしている。
「えっ!そうなの。武豊って言えば色男で名騎手なんでしょ」桃ちゃんでも名前と顔は一致するらしい。
「なまじ色男だからあんなコトになるんすよ」ケンちゃんはひがみを込めてそう言うと
「ネームバリューを利用して何でも有りの世界だよな」オレもかなりひがみがこもっている。
「女はそれに弱いからね」桃ちゃんは身に覚えがあるようだ。
「ブランドっすか?」ケンちゃんは武豊そのものがブランドであることに気付かされた。
「ブランドに耳元で囁かれたらもうダメ。溶けちゃう」桃ちゃんは頬を赤くして身を捩る。
「ありゃりゃ、そんなもんすかね」ケンちゃんは納得がいかないが納得するしかない。
「これで有馬記念の予想は面白くなったな」オレは役者が揃った暮れの大一番が待ち遠しい。
「優勝候補が目白押しっすね」ケンちゃんもさすがにワクワクして来たようだ。
「この時点で有馬記念の話はしたくない」マスターはすっかり落ち込んでしまった。
暮れの有馬記念の日のスナック・パドックは暗い沈黙を肴に酒を飲むことになるのだろうか。
少し心配である。