スペシャルウィーク

スペシャルウィークが天に召された。私にとっても本当に思い出深い１頭だ。

競馬を本格的に始めた９７年１２月川崎競馬場。メインは全日本３歳優駿（当時）。アグネスワールドで勝利した武豊騎手が私の目の前で他のファンが差し出した色紙に応じてサインを始めた。私は色紙なんて用意していなかったので、その様子をただ見ていた。せっかく目の前に武豊がいるんだから何か声をかけようと思って出た言葉は「来年はダービー勝ってな」コレに武豊騎手はカチンときたのか一瞬手を止めてジロリと睨むような感じで私を見た後、再びどんどん差し出される色紙への対応に戻った。その次の年の日本ダービー。スペシャルウィークの背で武豊騎手は念願のダービージョッキーになった。５馬身差の快勝、直線途中で鞭を落としゴールを過ぎてからは喜びを爆発させる武豊を見て私は「あの時あんなに睨む必要あったの？」と思わず呟いてしまった。

クラシックはセイウンスカイ・キングヘイローと鎬を削った。が、この中で強いのはスペシャルウィークと皆、思っていたはず。翌年の天皇賞・春は前門のセイウンスカイ、後門のメジロブライトを見事に完封して勝利。凱旋門賞挑戦の話が持ち上がる。が、海外挑戦の前哨戦みたいに言われていた宝塚記念で怪物・グラスワンダーに完敗。これで凱旋門賞挑戦は白紙。休養を挟んだ京都大賞典ではまさかの７着。あまり惨敗ぶりにマスコミも「終わった」みたいに報道し誰もがそう思っていた。そんな流れで迎えた天皇賞・秋。前走・札幌記念をこれまでの逃げ・先行から「まくり」で快勝したセイウンスカイが１番人気。スペシャルウィークは４番人気だった。スタート直前、１番人気セイウンスカイがゲートで大ゴネして目隠しの袋を被されてゲートイン。波乱を予感させる空気の中、勝利したのはスペシャルウィーク。天皇賞・春秋連覇達成。実況アナウンサーも思わず「なんと！スペシャルウィーク！」と絶叫。

次走はジャパンＣ。この年はエルコンドルパサーを凱旋門賞で下したモンジューに前年の英ダービー馬・ハイライズ等、今では考えられないくらいの強豪外国馬が参戦した。１番人気はモンジューだったが勝ったのはスペシャルウィーク。この日引退式のエルコンドルパサーに見せつけるかのような１馬身半差の快勝だった。私はウインズ横浜で観戦して馬連１着３着だった。ワイドはナンで来年からだと呻いた。

そして引退レースの有馬記念。宝塚記念で完敗したグラスワンダーへの雪辱がなるか？が焦点だが１コ下の世代からは皐月賞馬・テイエムオペラオーに菊花賞馬・ナリタトップロードにシンボリルドルフ最後の大物で京都大賞典では完敗したツルマルツヨシにメジロブライトと超豪華メンバーの師走のグランプリ。ゲートが開くと武豊・スペシャルウィークはグラスワンダーを完全マーク。最初の１角では最後方。レースはスローで流れて３角過ぎで手ごたえ十分のツルマルツヨシが動く。あまりの手応えの良さにグラスワンダーも動かざるを得ない。コレに合わせて他の馬も一斉に動く。スペシャルウィークもピッタリとグラスワンダーの後を追う。坂を上がりツルマルツヨシをテイエムオペラオーが交わした瞬間、グラスワンダーとスペシャルウィークが並んでゴールに飛び込んだ。写真判定。ゴール前の勢いはスペシャルウィーク。勝利を確信した武豊とスペシャルウィークはウイニングラン。グラスワンダー鞍上・的場はやられたといった表情だったが勝ったのはグラスワンダー。ゴールの瞬間ほんの鼻先だけが前に出ていた。信じられないといった表情の武豊。私の単勝馬券も紙クズになったが屈指の名勝負に心が震えた。

そして翌年の１月。年度代表馬選考は混迷。欧州長期遠征で凱旋門賞２着の他、欧州Ｇ１勝ちが一つのエルコンドルパサーに春秋グランプリ制覇のグラスワンダー、そして天皇賞春秋連覇にＪＣ勝ちのスペシャルウィーク。結果は年度代表馬にエルコンドルパサー、グラスワンダーとスペシャルウィークは特別賞。最後までこの２頭が目の上のタンコブ的な存在になった。

種牡馬としてはブエナビスタ・シーザリオが知られているが、私はインティライミのダービー２着が印象深い。この馬にダービーを勝利させなかったのが武豊とディープインパクトだったというのもちょっとした因縁だなぁと思う。種牡馬引退後は生まれ故郷の牧場で余生を過ごせて、そこで終われたのも良かったと思う。一度もお目にかかれた事はないけれどスペシャルウィーク、君の事は絶対に忘れない。あの世でもお元気で。