心残りな、小さな過ち。

熊本の方では、桜肉を牛肉のように食べる慣習があると聞く。

お国がらだし、悪い事でもない。勿論食用の馬肉である。私だって牛、豚、鶏。肉は大好きだ。

ただ、さすがに馬肉は食べたくない。競馬が好きな人なら解ってもらえるのではないか。「馬は乗るもの走るもの」なのである。

食べた事がない訳ではない。幼少期、兵隊さんだった祖父が栄養が付くからと何度か食べさせてもらったことがある。正直美味しいと思った。

20代後半だったか。行き付けの飲み屋で、マスターがサービスである生肉を提供してくれた。

「何の肉だと思う？」と出してくれたのだが、見た目は赤褐色でその時は何の疑いも持たなかった。

一口入れてハッとした。「マスターこれ桜じゃねぇの？」思わず毒づいてしまった。

「鹿だよ鹿。」マスターは笑って許してくれたが、今考えると本当失礼な事を言ってしまったなと思う。

良く考えればわかることだ。マスターも無類の馬券好き。我々の気持ちがわかるなら、馬肉を提供することなどしないだろう。

その時はわからなかった。マスターの心使いに。本当なら心からお礼すべきだったのに。

そのお店はもうない。本当に良いマスターだった。ただ一言、誤りたいな。かしこまってではなくとも、自分の無知な行いと無礼を。