11件のひとこと日記があります。
2018/09/06 12:19
プロフェッショナル【武豊】
【第六章 御す】
《第四項 ジェニアル》
ご存知のように父はサンデーサイレンスの最高傑作と言われる七冠馬ディープインパクト、母はフランG1・3勝の名牝サラフィナ。デビュー前から武豊騎手が惚れ込んだ一頭だ。
しかしながらデビューから3戦は全く良いところがなく3連敗を喫してしまう。配合から距離が伸びた方が...と、陣営は考慮して使ったのだろうが、馬体を見ていただくと分かるように若干胴が詰まっている。こうした胴が詰まり気味の馬はどちらかというと、短めの距離(1600m位まで)で良績を残す。距離を短縮してからは2連勝をするも、初戦から見せてはいたディープインパクトの気性が前面に出てしまい2連敗を喫する。
それはディープインパクトの項でコメントしたように、一気に燃えてしまう気性だ。直前に馬がいたり寄られたりすると一気に前へ行こうとして、前の馬に乗り掛かろうとしてしまう。どうしても国内のレースは多頭数で新潟競馬場以外は必ずコーナーがある為その対応策として武豊騎手は、前の馬から1馬身以上空けるようにしジェニアルを気分よく走らせている。
これらを上手く利用したのがメシドール賞だ。巷では「小頭数だから勝てた」と騒がれたが、現地の関係者も松永調教師も絶賛したように、武豊騎手の騎乗はこれ以上ない騎乗であった。勿論馬場適性がサラフィナの血によることは否めないが、直線1600mに加え少頭数であることにより他馬に揉まれることもなく、ジェニアルにとっては絶好の環境だった。その環境を上手く利用したのが鞍上だ。
先ずはそっとジェニアルを出し、そして最内枠を利用して内ラチ沿いを真っ直ぐに走らせる。競ってくる馬もいない為、ジェニアルの行きたがる気性を利用してハナを切った。その後は一握りほど手綱を短くし馬をなだめるようにそっと騎乗している。他の騎手の上体が上下する中、武豊騎手の頭と腰は全く動かず、動いているのは四輪車のサスペンションのような両腕と両脚のみだ。これぞ武豊騎手といった馬に負担を懸けないお手本の騎乗である。当然ジェニアルは気分よく走りながら終いの脚を溜めている。ジェニアルは後ろから行ったからといって終いの脚が溜まる馬ではない。こうして気分よく走らせることが終いの良い脚に繋がるのがジェニアルだ。そして追い出すと2着に入った馬が猛然と差してきてジェニアルを横目にハナを切る。そこで武豊騎手は待ってましたとばかりに鞭を入れ、最後の追い出しを始めた。最初の追い出しは単なるGOサインであり、2度目がラストの走りの指示である。これは騎乗馬の気性を利用する為、2着馬に競らせてジェニアルの燃え上がる気性を意図的に引き出させた頭脳的騎乗である。これが見事に嵌まりジェニアルは一気に闘争心に火が点き、前を行く2着馬を捕らえ差し切った。最後は余力を残してのゴールで着差以上の完勝だった。
国内レースでは短所とも言える気性を上手くレース環境に合致させた絶妙な御し方である。