81件のひとこと日記があります。
2018/09/30 00:27
プロフェッショナル 武豊 (2)
【第二章 馬の呼吸を意識する】
後輩騎手達は「ユタカさんの仕掛けのタイミングが絶妙だ」と、口を揃える。そしてある騎手は「こっちが仕掛けようとしていると、後ろにいたはずのユタカさんがいつの間にか横にいるんですよ。こっちが仕掛けようとしてるのにユタカさんは追い出し始めてるんです。加速してる馬にこれから仕掛けてもスピードが違いますから置いてかれるのは当然ですよね」と、絶妙な仕掛けに感心しきり。
この仕掛けのタイミングは個々の馬の特性や脚質、そしてレース展開によって異なるが、他の騎手では聞かれない『馬の呼吸』をも意識している。事実、武豊騎手自身も「馬の呼吸を意識して乗るようになった頃から、勝ち鞍が増えたんですよ」と、発言している。後輩騎手達も又「ユタカさんは馬が息を吸った時と吐いたとき、どっちのタイミングで追い出したらいいかまで考えて乗っている」と、証言している。
私は中学・高校と陸上競技の短距離選手だった。しかし、高校2年生の秋に監督から中距離(800m・1500m)へ転向させられた。それは...学年別の全校マラソン大会(約1000名が砂浜を一斉スタート)において4位に入賞した事が発端だった。そして、100mや200mでは勝てない相手でも400mでは必ず勝つことから、短距離(ハードル競争を含めた100mから400m競争)から中距離の800m専門への初の転向を実践させられた。そこで知ったのが最後の200mで『呼吸を意識する』だった。監督から「ラスト200mで前傾をしてみろ。そうすれば短距離のスピードが最後に生かされる」と、助言され試してみると、既に息が上がり腿も上がらない状態にもかかわらず脚が勝手に前へと動き、タイムが短縮された。その時に気付いたことが息を吸うと上体が起きてしまい前傾が出来ない。逆に息を吐くと体が楽になり前傾が容易で脚が動くことだった。武豊騎手の『馬の呼吸を意識する』を知った時この実体験を思い出し「人間と同じだな」と、実感させられた。
馬にとって息を吸った時が良いのか吐いた時が良いのかは個々の馬によるが、レースの展開と馬の脚、そして馬の呼吸のバランスの三者を計り仕掛けや追い出しをしているのが武豊騎手である。又彼は、レースのみならず調教時の馬の状態を把握しその状態と比較しながらレース当日の馬の状態を分析する。パドックの時から歩様をチェックしながら馬の呼吸を意識し、その日の馬の状態を探っている。いくら馬体が仕上がっていても呼吸が乱れていては四肢のバランスが悪くなり、馬自身の力が発揮出来ないことに繋がりかねない。個々の馬の特性を活かす上でも武豊騎手にとって馬の呼吸を意識した騎乗は欠かせないものになっている。ここまで意識をしながら騎乗している騎手は、今のところ彼以外に見当たらない。