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2018/10/08 14:37
プロフェッショナル 武豊(3)
【第三章 世界トップクラスのステッキワーク】
最後の直線で鞭(ステッキ)を多用している騎手は「追っている」、あるいは「追い方が上手い」と言われがちだが武豊騎手には当てはまらない。
馬は神経質で臆病な生き物。馬の本質は鞭で叩かれるどころか、触られることも嫌がる。それを人間の手によって調教という人工的に施されたのが競走馬である。
鞭を使用する役割は最後の走りの合図(ゴーサイン)・走りを促す・方向を変える・手前を変える等々。使用方法は一般的な馬体(臀部)を叩くことと肩を叩く肩鞭、そして馬の顔の横に鞭を見せる見せ鞭(画像)がある。多くの騎手はフォアハンドで臀部を叩くが、武豊騎手の場合は個々の馬とレース展開によってフォアハンドとバックハンドを使い分ける。時にバックハンドで臀部を叩いていると突然クルリと回しフォアハンドに持ち変えて鞭を使用する為である。失敗して鞭を落としてしまったこともあったが...。このフォアハンドを使用する際には鞭を決して真上には上げず前頭葉の前へ上げ、そこから斜め後ろへ振り下ろす。これは『肩より上に上げてはならない』という鞭の使用ルールに準じているものであり、且つ空気抵抗を減らしながら少しでも馬を前に進めようとしている彼なりの方法である。反対側の手綱で馬を鼓舞している時に、鞭を持っている腕を真上に上げては空気抵抗が増し、せっかく低く構えた上体も浮いてしまうことに繋がる。こうしたことが馬上では馬の軸と一直線上になり、馬に負担を強いることのないあの綺麗なフォームに繋がっている。これは彼なりの理論があってこその技術である。勿論、バックハンドのまま臀部を叩くこともあるが、多くはフォアハンドでしか使えない肩鞭や見せ鞭を使用する為でもある。この見せ鞭は福永騎手や秋山騎手、内田騎手、柴田(善)騎手の他にもルメール騎手も使用している。鞭で叩かれることを嫌がる馬には、非常に効果的な方法である。そして肩鞭は、バックハンドで軽く使用し行き脚を促す時と手前を替える時、そして最後の直線で外や内に激しくヨレる馬にフォアハンドでよく使用している。但しこのフォアハンドでの肩鞭は、一般的な臀部を叩く回数を1回とすると、1.5〜2回と見なされてしまう為に非常に注意しなければならない。事実、今年も肩鞭の使用で制裁を科せられている。見た目にはそれほど多用しているようには見えないが、臀部を数回叩いた後、肩鞭を3〜4回使用していたのは事実である。
以前は岡部幸雄元騎手も同様の使い分けをしていたが、こうした鞭の使い分けを実践しているのは現在では武豊騎手ただ一人のようだ。
そして「出来れば鞭で馬を叩きたくない」と明かしているように、『鞭を使用しない騎乗』が武豊騎手の基本姿勢であることを付け加えておく。