松本好雄オーナーと吉田照哉氏の対談

グリーンチャンネルの番組にて二人の対談の放送があり、競馬に対する姿勢や考え方の相違に非常に興味深いものを覚えた。録画が出来なかった為、記憶とメモの中から端折って記載してみる。
松本氏の｢個人馬主として競馬を楽しんでいる｣。｢馬を持って儲けるとか商売として繁栄させるものではないと思っている｣。｢個人馬主が足りない。今後はもっと個人馬主を増やしていかなければならない。競馬界としてもＰＲを増やすべきである｣。｢日高の生産施設は規模が小さい。吉田さんのような大きな規模にしなければ馬作りはなかなか難しいだろう｣。
これに対し吉田氏は｢ウチのスタッフは皆馬が好きだ。良くない馬を作ることは商売として駄目｣。その後は売り上げや手数料について話し、続けて｢好きで馬作りをしている者にはかなわない｣と発言。
松本氏が苦言を呈するように｢吉田さんの前では失礼になるが、時の種馬に集中するのは良くない。今がそういう状態にある｣。これに対し吉田氏は｢ディープインパクトの種付けが...(有名人の名前が並び)...有名人から相次いでいる。エリザベス女王からもきている｣と鼻高々に発言。
確かに日本競馬界を世界的基準のグループ２からグループ１に押し上げ格付けさせた功労者は、間違いなく吉田照哉氏だ。但し、単独で為し得たことではない。そこには調教師や厩舎スタッフ、そして騎手が欠かせないことは周知の事実だ。
ここで騎手の話に転じるが松本氏はメイショウサムソンのことを引き合いに出し｢メイショウサムソンを(石橋)マモルで皐月賞とダービーを勝てたのは大変嬉しかった。しかし、(武)ユタカちゃんで勝てなかったかもしれない。それは継続騎乗してきた騎手だからこそ分かることがある｣と、まるで簡単に乗り替わりをさせるのは良くないといったニュアンスだった。この発言に吉田氏は首を縦に振りながら聞いていたが、表情は皮肉のように感じた素振りだった。
そしてメイショウサムソンが凱旋門賞に挑戦することが決定した際のことを｢スタッフや関係者１０人位に加えてマモルとユタカちゃんも呼び、その前で凱旋門賞は海外競馬が豊富なユタカちゃんを乗せると話したんだ。マモルは快く承諾したよ｣と、これもまた吉田氏に対する皮肉ではないかと思えるような発言だった。
海外騎手の話題になり｢松本オーナーは外国の騎手をあまり乗せませんが？｣の質問に対して｢ルメールやデムーロも乗せたいんですよ。でも調教師達が日本の騎手を乗せたいと言ってるから調教師に任せているんです｣と、以前から騎乗に関しては口を挟まない松本氏らしい返しだった。
また、海外騎手についてこんなことも...｢海外では狭い所を縫って行かなければならないが、日本の競馬は必ず４コーナーで広がる為、外国の騎手は乗りやすいはず。今は日本の馬は強いといった認識があり、加えて勝てる要素があるからこそ日本へ来たがる。ルメールもデムーロも未だ凱旋門賞を勝っていない。外国の騎手が日本に来て、日本の馬で凱旋門賞に挑戦する時代になってきたんですね｣と、松本氏は日本の騎手の危機感を露にしている。
そして、今後の日本競馬について松本氏は｢若手だけのレースをもっと増やさなければならない｣に付け加え｢今の３人や４人の新人騎手デビューでは必ず乗れる。海外のようにもっと競争をさせなくてはならない。これからはもっと多くの生徒を入校させて、その頃から競争意識を持たせなくてはならない｣と苦言を呈している。これに対して吉田氏は｢ジョッキーは花形ですから｣と、何とも素っ気ない発言だった。
また｢開催日をもっと増やして欲しい。例えば猛暑の夏場開催を札幌に移し、札幌開催を増やすといった方法...｣と松本氏は提案した。これに対して吉田氏は｢涼しい札幌での開催は良いことですね｣、そして｢日本の競馬を発展させたい｣と締め括っている。
しかしながら、吉田氏とインタビュアーの鈴木淑子氏を交互に見ながら『長らく日本競馬界を引っ張ってきた日高の馬に再び華を咲かせたい』、そして『日本の騎手にチャンスを付与しレベルを上げたい』といった松本氏の発言は本音だろう。一方の吉田氏は僅かに松本氏を見ながら発言することがあっても、殆ど前を向いて無表情のままの姿や発言内容は、やはり莫大な資金力を持つ商売上手な権力者の姿が垣間見えた。