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2019/06/06 08:43

66

「映画館へ遠回りするためにこの道に来たのか?」

「それもある、かな。きみ、携帯の電源は」

「通報できるように、つけているけど」

 ぼくの携帯は暴力に合っているので、無理矢理遮断されたりGPSによって雇われたバイトの人に追い回されたりすることがある。
今の時代、家の住所がわかれば、ネットで検索して家や近所の店を把握しやすいらしい。
 やろうと思えばSNSなどの情報を拾ってグルグールからストーカー出来るよ、と彼は冗談混じりに笑う。探偵はしやすいかな、とか。

 つるつるした石畳の上に、先日降った雨で水溜まりが出来ていた。蒼い空を映して揺れている。不安定な気分になっていると彼が付け足すように口にした。

「僕もそうだった。家まで押し掛けてきた犯人もそうやっていたんだろう。
展示した作品の応募のときの名前や住所からおおまかな情報を掴むくらい、わりと簡単なことだ。道徳的にはなっちゃいないけれどね」


――彼は何か作るのが好きだった。

けれどいつしか、作風を見失った作家たちという亡霊に取り憑かれてしまうようになった。
彼らは手段を選ばず、付きまとい嫌がらせ、強盗に誘拐となんでもやった。
彼らのいくらかの背後には、政治家や宗教団体があった。
 ぼくが殺した人の背中。
彼が帰ってきたあの殺人の後宗教団体は一気に減った。

櫻さんの恨みは、減ることが無いだろうけど。

「そういえば櫻さん、最近じゃ、きみに恋をしたという嘘をついて付きまとう理由にまでしているらしいと近所の子が言ってたぞ」

「えぇ……恋は、無いだろ、気持ち悪いな」
まあ、そりゃ確かに黙って付けていたら変だからな。


「警察も怠慢だよな。ぼくは殺人犯なのに」

櫻さんがまさか本当に『親を殺した殺人犯と付き合いたい』というイカレた思考になってしまったんなら、しかるべきところで診察を受け、ぼくとしては止めるように説得して欲しいところだ。
 櫻さんの背後にある宗教団体連中政治家連中から嫌われているってこと、それは万が一があろうと彼女以外は祝福する気ゼロだってこと、早く気がついて欲しい。


殺される。間違いがない。


そんなことを考えなんとなくうつむきがちで歩いていると、少し先の方に、破れた新聞が地面に落ちていた。
『けも耳の研究、すすむ』とかの見出しが踊っている横に、政治家のニュースがある。
『水山氏、泥酔で暴行』とか、水山氏がまた事件!とかが書いてあった。夜中に男性につかみかかったとかなんとか。

政治家から熱烈な祝福を受けている。だからわかる、この名前の見出しはわざわざぼくの近況を再現し(ぼくの名前を直接出すわけにはいかないため)
こんな行動は、櫻さんにふさわしくないことについて語るべく作ったものだ。

 ぼくは、確かに似たような状況になった(正確には少し前の日の夜に、後ろをつけてきた怪しい男を捕まえた)ことがある。


「ほら、櫻さん以外喜んでない」
バカにしたい気分だった。
親殺しと付き合いたいような人なんか、絶対おかしい。
ぼくだったら最低な人だと思うはずだ。

苦しい嘘も大概にした方がいい。
「その偽りの好意がある限り、こんな風にみんなに迷惑をかけてる。一回、注意した方がいいかもな」

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