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2019/06/12 12:54
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パンフレットが並べてある壁際の区画で、すー、はー、とやけに深呼吸しているスカート姿の女性を見つけた。
具合でも悪いのかと近づいてみるとやはり『彼女』だった。
「少し、落ち着かないです……」
彼、が話しかけに行く。
「こんにちは。こられていて、よかった」
「はい……あの」
彼女はぼくの方をちらりと見たが、「彼は協力者だから気にしないでいいよ」と彼が言うと納得したように微笑んでいた。
しかし額にはうっすらと不安や恐怖がにじむ。
恋愛に対する甘い気持ちからでも彼に見惚れているからでもなく、感情を表す、自由な意思で動く、というものを求められるこういった状況はともすれば発狂してしまうようなものだった。
彼女は、少しだけ、ぼくと似ていた。
今考えていることも、きっと早く帰りたいということだろう。
意思や自我を許されない感情の檻から、少し出されたところで腸が煮えくり返るだろう。
中身のない自分の自我の脱け殻を褒められるという不気味。
自分にすら操り用のない、壮絶な嫌悪。
ここまで、来られて、本当に、よく頑張っている。
「先ほど」
と彼女は言った。
「実はなえさんが来られて……『今日は、一緒に居るといいよ』と、くま様がついて来てくださったのです」
やがて彼女の手にしている
ファスナー付きの、かご風のトートバッグから、ひょこっと、無表情な彼が現れ、こちらをじっと見ていた。
「……」
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