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2019/07/02 14:20

106

 傘をさしなおして街を歩く。たまに走った。
 出版社に電話をしたときは、切るしかなかったっけ。
まさかこんな惨状について、ただ受け付ける相手に、なにを言えばいいのかと思うだろう。
外は少し雨が降り始めていた。
 車の気配が、あちこちから、こちらに集まってくる。

「この辺りは建物もないし、まして、天気が悪いから、あのルートは使えないな」

舌打ちする。
彼はぼくをちらりと見た。見ていただけかもしれない。

「まるで人生のようだね」

逃げても拘束され、やっと見つけた道も拘束され、どうにか穴を掘って外に出たのに、そこで待ち構えた人に、蓋を被せられて。
何を頑張ろうと、どんな綺麗事を言おうと何も許されやしないのだ。だからこそ、そんな綺麗事をヘラヘラ語り、努力が無意味という事実をねじ曲げて犠牲者を増やすやり口――を商売にすることが未だに続く現実には腹が立ったりもしたものだった。
「僕たちのなかではみんないってたけど、やはり、正しいよ。
絶望を愛し、諦めて、生きるしかないよね」

「そう、開き直って、なにひとつ救われない毎日を愛するしかないわけだよ。
あいつらの言うことは嘘っぱちでしかないって、嘲笑してないとね」

死んでいくだけの身体を、世の中の間違いの権化として。
それはまるで世界の頂点にたっているような、ある意味、悪くない開きなおりだったのでぼくはくすりと笑った。
買う価値もない幻想より、
狂った楽しい現実の方が、ずっと価値がある。

本なんか燃やせるくらい。
なんて素敵な 現実だろうか。
幻想なんかじゃわからないこんな毎日、他にないじゃないか。

僕たちは特別だ。
限りなく特別だ。
周りより特別だ。
嘆いてみろ、嘆いてみろ、嘆いて――――


「で……どっから帰る?」

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