モンスターと呼ばれた男 その名は井上尚弥

この試合を死闘と言わず何と表現すればいいのだろうデビュー以来負け知らずで重ねた栄光のキャリアはプロボクシング界に燦然と輝く不滅の金字塔となっている。各階級の最強チャンピオンを決めるWBSS(ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ)バンタム級に井上尚弥の参戦が決まった時に胸を踊らせると共に何の疑いもなく尚弥が世界最強を証明すると確信していた。その予想を上回るように元WBAスーパー王者のパヤノ、IBF王者のロドリゲスをいずれも試合序盤に豪快なKOで破り迎えた決勝の相手はボクシング界のレジェンドWBAスーパー王者のノニト・ドネア。この伝説の男さえ井上尚弥の前には脆く敗れ去るものだと思っていた。だがこの男、とてつもなく強かった序盤の探りあいから早くも鋭いパンチの応酬となり井上尚弥が的確にジャブをヒットさせ主導権を握るがドネアの強烈な右フックを食らいキャリア初の出血、ドネアのカミソリパンチで右目の上をカットしたのである。それでも6ラウンドまでは猛攻を仕掛ける井上に分があったが7ラウンドからドネアが左ボディ、右ストレートで反撃を開始して8ラウンドにはストレートで再び出血、鼻血も止まらなくなり井上が劣勢になる迎えた9ラウンド、ドネアのストレートでガクッと腰を落とす尚弥、KO負けすら頭をよぎったが辛くもクリンチで逃れた。この逆境でも不屈の精神力はいささかも衰えず10ラウンドから井上尚弥の猛攻が始まるそして迎えた11ラウンド、井上の左ボディが炸裂してドネアが苦悶の表情で堪らずダウン、最終12ラウンドも猛攻を仕掛けた井上尚弥が文句なしの判定勝ちこの偉大なレジェンドとの大苦戦の末の勝利で井上尚弥が得たモノは計り知れないほど大きい。目指すは全階級の王者の中の王者、パウンド・フォー・パウンドのトップに君臨する偉業。井上尚弥なら、きっとそれさえも達成して世界のスーパースターに羽ばたくのであろうその日を楽しみにこの不世出の天才ボクサーをいつまでも見ていたいと思った夜であった