日本ダービー雑感

昭和53年の日本ダービーを勝ったのは、小島太元騎手のサクラショウリでした。
普段はもっぱらゴルフ中継ばかりを見ている父が珍しく競馬を観だしたので理由を聞いてみたら、特券(何故かかつて1,000円の馬券をそう呼んでいた)を買っているとの事。ゴルフであろうと競馬であろうと中一の私には興味がありませんでしたが何となく一緒に見ていたら、だんだんゴールが近づいて来ると父が興奮して来ました。そしてついに1・2着馬が入線すると「当たった、当たった」と騒ぎ始めました。余りにも連呼するものですから「じゃあ、バットを買ってよ」と言ったら二つ返事で買ってくれると。そしてすぐに近くのスポーツ用品店へ行き、2,100円のバットを買って貰いました。

そして令和2年5月30日、最後の力を振り絞って担当医の元へ抗癌剤投与の為に伺ったところ既にそれに耐えられる体力はなく、医師からはそっと「あと数日」と告げられたので、父には何か一言声をかけて頂く事のみを頼みました。帰宅後の夕方、ふと前記の事を思い出したので日刊ゲンダイを父の枕元へ持って行き、その話をしながら「明日も3-5を買う?」と聞いたら新聞へ少々視線を送った後、最初に右手で3本、続けて右手で1本と左手で5本の指を立てました。何故、3-6を選んだのかその理由聞いても話せる声が出せないのは分かっていたので、「おっ、当てに来たね」とだけ話しかけて早速ネット投票を行いました。
その日の深夜、胃の全摘出、大腸の短絡手術の影響か、横にはなれず介護ベッドの上半身をほぼ完全に上げた状態で何回かの体位交換を行っていましたが、途中足を上げようと持とうとしたら自分の腰を痛めてしまいました。在宅介護を妻や弟夫婦と共に一か月余り行なって来ましたが、それも限界に近づいて来ていたのかもしれません。
そして5月31日、腰痛の為、昼過ぎまでほぼ横になっていましたが15時半位に父の元へ行きNHKをつけました。介護ベッドの向きから画面を見る事はできなく音声のみとなりましたが、その中継でゴールに1・2着馬が入線した直後に「当たったよ。これでバット代を返すよ」と話したら、左手を少々上げて反応してくれました。

翌6月1日、4月末に新型コロナ院内感染が発生した病院から何とか生還して一か月半の闘病生活を終え、父は永眠しました。昭和53年と今年以外にも何回か日本ダービーを代わりに買ってあげたかと思いますが、私の記憶に残っている父の日本ダービーの戦績は、2戦全勝で幕を閉じました。