ハノイ追想（４）

戦後、経済発展を遂げる中、静岡には優良な企業が多く集まり、日本の屋台骨を支えたと聞きます。
今でも複数の大手企業が静岡を拠点とし、海外からも多くの労働者が集まっています。
今回縁あって会うことができたベトナム人の女性もそのうちの一人で、日本企業のために働いているということでした。
ハノイからは、空路だと、東京よりも静岡の方が近くていいとも言っていました。
自分にとって、競馬場のない静岡県は休日に訪れる場所ではないのだけれど、尋ねることができていい経験となりました。

二人で静岡の名所を幾つか周るうちに、ふと、彼女に将来の夢を聞いてみたら、
今は日本企業で働いているが、いつか、自分の会社を持ちたいと言っていました。
ベトナムでは、女性の間で、日本の化粧品がとても喜ばれているので、
日本の化粧品をベトナムに輸入する会社を持ちたいと言っていました。
それを聞いて、自分は、ふと、ベトナム戦争後を扱った写真を思い出していました。

ベトナム戦争後、多くの障害者が出たのですが、ベトナム人が笑顔で支え合っている写真でした。
その写真では、ベトナム人の女性が障害者を支えていたのですが、化粧などしていなくても綺麗なひとだなと感じたものです。
自分としては、日本の化粧品などなくても綺麗になれますよと言いたくもなったのですが、
他人の夢に水を差すのも嫌なので黙って聞いていました。

さて、日本語、英語、ベトナム語を流暢に使える優秀な彼女ですが、結局、出会ったのは、今のところ、それが最後です。
あまりにも日本語が上手で、こちらとしては、引いてしまったというのもありましたが、
将来、ビジネスとして、また、会って話を聞いてみたいと思ったひとでもありました。

その後、静岡で会ったベトナムのひととは何度かメール交換をしたりもしたのですが、
程なく、３．１１の大津波が日本に起こり、自分としては日本の今後に関心が奪われ、ベトナムどころではなくなってしまいました。
それでも、せっかく会ったひとなので、３．１１を扱った日本の報道誌をハノイに送ってみたりもしました。

もうひとりのハノイのチャット相手からも、３．１１後、すぐに呼び出されました。
「ハノイでは、みんな、日本のニュースを観てる」と言っていました。
「死ぬかもしれないと思った」と軽い気持ちで応えてみたら、「変なことは言うな」と怒られたものです。

その頃、ハノイに訪れる計画を考えていたのですが、震災後はとてもそんな気分でなくなり、
チャット相手と会う約束も流れてしまいましたが、時々、ふと、ハノイのことを考えたりもします。

コナンが好きで、日本文化が好きだといってくれ、何度もチャットにつきあってくれたひと。
ハキハキしていて、元気な子だったな。
日本語が得意で、日本に来てくれて、将来の夢を語ってくれたひと。
中国との戦争を本気で心配していた様子だったけれど、どうなんだろう。

あれから１年。
ふと、気まぐれに、「自分にとって、ベトナムって、何だろう」と自分自身に聞きなったりもします。
でも、出会ったひとたちは、いいひとばかりだった。
それは、自信を持って言えます。
だから、当分は、自分はベトナム好きでいるのかもしれない。