32件のひとこと日記があります。
2021/01/10 16:27
菊池寛
日本競馬読本「プラツセの買方」より抜粋
(馬券は単と複のみで1枚20円、配当上限10倍の時代)
最初から複式の穴と目されるやうな馬は大抵の場合単式では殆んどくる見込のない馬が多い。
所謂三着にくるか着外かと云ふ崖つぷちの馬である。
三着にしか来るチヤンスのない馬である。
さう云ふ馬を複式で狙ひ当てるまでには、余程損をしなければならない。
単式の大穴を当てるよりは遥かに難かしい。
その証拠には過去の払戻金額を調べてみるがいい。
百円以上の単式払戻金に比して、複式の百円以上と云ふのは極めて率の少ないものであることに気づくであらう。
三着にしかくるチヤンスのない馬と云ふのは、幾度も幾度ものレースに於いて、
やつとの事で三着に喰いこむチヤンスを握ることがあるのである。それだけの実力しかないのである。
一着にくる可能性のある馬なら、間違つても着にはくるものと見てよい。
着にきさへずれば損はしないのである。
一着にくる可能性ありと認めた馬がさうさう度々着外になるやうなわけはない。
三着にしかくる可能性のない馬は実に屡々着外になる。その安全性に非常な相違があり、しかも払戻金はそれに正比例して多いかと云ふと、
事実は決してさうはいかないのだから、
複式を買ふにしても矢張り一着にくる可能性のある馬を買ふのが馬券戦術の正道である。