189件のひとこと日記があります。
2012/09/13 15:10
ながちゃんだってやるときはやる(終)
毎日暑いです。こんな風に暑いとなんかへんてこりんなことが起こるものです。
そう、あの日もこんな風に暑い日でした。
「あれ、ながちゃんは」
「ベッドの上でしょ」これいつもの会話。
しかしながちゃんはベッドの上にはいませんでした。ベッドの上どころか、下にも、娘の部屋のベッドにも、本棚の下の隙間にもいません。探し回っているうちに嫌な予感がしてきました。暑いのでドアは半開き、もしやそこから・・・・。
すぐに外廊下へ出て、妻はエレベーターへ、私は非常階段へ急ぎました。あちこち見まわしながらながちゃん、ながちゃんと呼びながら下りるうち、一階へ着きました。そのまま建物の周囲を探します。いや部屋のどこかに居る筈だと思い直して部屋に戻ります。部屋には妻がもう戻っていました。
どうしょう、頭の中は真っ白でした。浮かんだのはあの子になんて言ったらいいのかということ。ながちゃんがいるから、ドアは開け放しにしないでねと何度も言われていたのです。ながちゃんをつれてきたのは娘でした。娘がながちゃんの保護者でした。四谷の会社から戻るまでに何とかしなければ・・・・。
どうにもならないことをどうにかするために、盗人になることを決心した羅生門の下人より、私は追い詰められていたのです。
「いた!」
その声に振り向くと、目を見張っている妻が何か指さしています。
見ると押入れから化粧台の椅子の下をくぐって、ゆっくりと出てくるながちゃんがいました。
「ながちゃん」そう言って私はいつものように頭から背中まで優しく撫でてやりました。
「ながちゃん、返事しないんだもんな」そうも言いました。不思議と腹は立ちませんでした。
気が付くと私の頬に涙は流れていませんでした。
これが第一回目の脱走騒ぎです。