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2018/06/05 16:59
小説 不思議な体験 連載1
康夫は28歳の会社員で独身。彼女はいない。安アパートで独り暮らしをしている。初めて買った馬券が当たって競馬にはまった。主に土日に東京競馬場で馬券を買っている。昼過ぎに電車で競馬場に行くと、まず腹ごしらえをして、7Rぐらいから始めて最終レースまでいる。トータルは赤字。
この日もいつものように12時ぐらいに競馬場について、てんぷらそばを食ってから競馬新聞を見ていた。5Rは間に合わないから6Rからやるか。1番人気の馬から馬連で6点買った。1点500円、合計3000円。見事にハズレ。7,8,9,10Rとハズレが続き、いよいよメインレース。ここは気合を入れて5000円勝負。もう1番人気の馬は信用しない。穴馬を選んで馬連で勝負。しかし、これも見事に外れて6連敗。2万円もすってしまった。財布にはあと1万円残っている。
最終レースでもう一度5000円勝負だ。一気に取り戻すぞ。競馬新聞をにらみつけて軸馬を探した。そうしているうちにいつのまにからちの所にいた。すると隣に若い女の子が1人で立っていた。20代前半ぐらいに見えた。最近は競馬場に若い女の子が増えたなあ。それも1人で来るなんて。そのうち彼氏が現れるのか。
しかし、彼氏が来る気配は無し。一人でじっと馬場を見つめていた。そして、私の方を見てニコとほほ笑みかけてきた。かわいい。一人ですか。そうです。僕も一人なんですが、今日は全然当たらなくて。最終レースはぜひ当てたいんです。すると彼女はまたニコとほほ笑んで、3番の馬を応援しているんですと言った。そうですか。
彼女は一口馬主なのか、POGでもやっているのか。単にその馬のファンなのか。いろいろ疑問は浮かんだが聞くのもめんどくさいし、そろそろ馬券を買わないと間に合わない。じゃあ3番を買うか。単勝3番、5000円の勝負じゃ。彼女かわいいから外れてもいいや。
さっそく馬券を買いに行ってまた同じ場所に戻ってきた。でも彼女はもうそこにはいなかった。何かだまされた気分。でも彼女かわいかったから馬券が外れてもいいや。3番を応援しよう。
東京最終12R、ダート1600m、15頭立て。結局3番は3番人気。好スタートから4番手追走。最後の直線に入って各馬一斉にラストスパート。3番は鋭く伸びて残り200mで先頭に立つ。すると外から1番人気の馬が猛然と追い込んで来た。ああ、差されると思って見ていると、ほぼ同時にゴールイン。残っているよな。しかし、写真判定になる。しばらくして掲示板の一番上に3という数字が点滅した。ハナ差。
馬券的中。単勝で510円付いた。払い戻し25500円。2万5千円使っているのでトータルではたった500円の黒字。でも上出来上出来。彼女にお礼が言いたい。彼女は彼氏がいるのかなあ。競馬場をさまよっていれば会えるのかなあ。俺の経験からすると競馬場や野球場では、待ち合わせでもしない限り、探している人を見つけることはほとんどできない。もう会えないだろうね。まぼろしの勝利の女神だったのかもしれない。
次の週も競馬場に行った。ひょっとしたらと思って先週と同じ場所に行ってみた。やっぱり彼女はいなかった。でも、最終レースで奇跡は起こった。
つづく

