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2015/09/04 20:40

Vivo cada dia como se fosse ultimo 【前編1】

夏ももうすぐ終わる頃。
出会いも別れも、それは唐突だった。

僕は千歳で牧場を何ヶ所か見学したあと、レンタカーを札幌方面に走らせていた。
とある交差点で信号待ちをしていた時、助手席側の窓を外からたたく女の子。
それがユリだった。  
9月上旬、この年の道央はまだまだ残暑きびしく日射しがやたら眩しかったのを覚えている。

当時の北海道は、函館〜札幌とか、札幌〜旭川とか、いわゆる幹線道路の道沿いに
車で北海道観光に来ている都会の若い男達との出会いを求め、声をかけてもらうために
数人単位でわざとらしい笑顔でシナを作り立っている地元の女子達がいたものだが
そういう子達とはちょっと違う、明らかに地元の子ではない、リュックを背に旅をしている風の体育会系の女子だった。

「すみません突然。もしよかったら札幌まで乗せてもらえません?」とユリ。
ミロングでストレートの黒髪がコントラストになって映えるまっ白なTシャツにジーンズ。
美人という程ではなかったが、屈託のない、少し日焼けした満面の笑顔。
それでいて、何故かそこだけがまるで別の生き物のような、妖しい雌豹のような瞳。
僕はまるでそうするのが必然であるかのようにユリを車に招き入れたのだった。

「ほんとうにご迷惑でなければよかったんですけど。」
いや、そんなことないよ。僕も本当は友達と2人で来るはずだったのに急にそいつが来れなくなっちゃってさ。話し相手が欲しかったとこだし。それに・・・君はかわいいし。

見たところ、もしかして一人旅でヒッチハイクとか?
「まぁそんなところです。」
どこから来たの?
「えー?西の方、かな〜?」
学生さんなの?
「どーでしょ?ふふっ。」
ま、こんな時期に旅をしているくらいだから、社会人じゃなく夏休み中の学生だってことくらいは想像できた。でもその後教えてくれたのはユリという下の名前くらい。あとは笑顔でかわすだけでで苗字も歳も住んでる所も何も話してはくれない。西の出身ということすら、言葉に全く関西訛りがなかったのもちょっと怪しい。でもそのかわり、中学高校とバレーボールをやっていて、練習がすごく厳しかったとか、試合で負けていつも号泣したとか、気が合ったり合わなかったりした先輩後輩のこととか。こっちの話は延々と続き、僕を退屈させないには十分だった。
ただ、肝心の僕の馬の話にはほとんど興味を示してくれない。

気がつけば夕暮れ。もう札幌の市街地に入っていた。
どこまで・・・どこで降ろせばいいのかな?今日の宿泊先は?
「決めてないんですよ、実は。・・・あ、でもとりあえず札幌駅の近くに観光案内とかあると思うんで、そこらへんでいいです。」

もうすぐ、あと少しで札幌駅の近くに着いてしまう。
どうしよう。このままでさよならじゃ寂しすぎる。よ、よし。夕食ぐらいは誘おう。
あ、あのさぁ。
するとほぼ同時に「今日はありがとうございました!で、もし良かったらお礼に夕御飯おごらせてください。」とユリ。
僕は図らずも自分の思い通りになったことに、少なからず動揺してしまった。

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