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2015/09/05 08:13
Vivo cada dia como se fosse ultimo 【後編2】
目をさましたユリは窓を開けた。
「海が見たいわ。」
そこで僕達は道路脇に車を停め、見渡す限り誰もいない砂浜に歩いていった。
「風が涼しいわ。」
海風にありがちな、べたついた感じはない。
ああ、いつまでもこうしていたい。
いつまでも、いつまでも。
ユリも目を閉じ、心地よさそうに風に吹かれている。
ユリと二人きり。時間がこのままとまればいいのに。
僕はそれを言葉にせずず、一時の充実感に浸っていたのだが・・・
ユリが歌い出す。たしか中島みゆきだ。
あなたが海を 見ているうちに
私少しずつ 遠くへ行くわ
風が冷たく ならないうちに
私もうすぐ そこは国道
「この先の増毛で、お別れしましょう。」
え?
今何て?
いきなり?
旅の途中で偶然知り合った二人。いつかどこかで別れなければならないのは定めと人は言う。
それはそうだ。それはそうなのかもだけど。
昨日体を許しあった仲じゃないのか?それでも女ってみんなこんなものなのか?
昨日のユリと今日のユリは全然別人みたいな、そんな気がしてたんだ。
嫌だ嫌だ、ユリ。もっともっと一緒にいたいよ。
でもこの心の叫びが、何故か気後れてしまって言葉にならない。
どうするんだ、どうしたらいいんだ?
わからない、ユリ・・・
結局、若すぎて馬鹿な僕は何も出来ず、一種抗うことの出来ない無形の力に屈するように
ユリの言われるまま増毛駅まで彼女を送って行った。
引き留めろ、何してるんだ引き留めて抱きしめて、行かないでくれって泣けよ!
好きだって叫べよ!
だがその時、ユリの瞳は昨日の雌豹の妖しさのそれではなく、
悲しみに浸る息子を包み込む慈母のそれに変わっていた。
何とか叫ぼうとした僕はその刹那、再びこの痛烈なクロスカウンターを食らった。
また、やられた。
もう何も言えなくなった僕も、それでも精一杯の抵抗で一筋の涙だけは流したのだが
ユリは、それに気づいてくれたんだと思う。
列車に乗る別れ際、ユリの言った最後の言葉。
「さよなら。運命がまた私達を巡り合わせてくれたら。」
せめて電話番号を、という僕の最後の声も、発車のベルにかき消された。
夏がもうすぐ終わる。
ユリにはその後二度と逢えていない。
遙か30年以上前、遠い昔の話。