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2012/05/29 02:40
日本ダービー回顧
夏草や つわものどもが夢の跡
かつて兵士たちが功名の野望を抱いて奮戦し、儚く散っていった居城も
今は夏草が生い茂るばかりだ、というような情景を詠った松尾芭蕉の俳句だ。
選ばれし18頭の精鋭が己の威信を賭けた祭典が終わり、芭蕉の句が一層胸に染みる
競馬における勝者と敗者が日本ダービー制覇で決定されるならば、勝者は毎年、世代でただ1頭
7000頭以上の中から選抜された他の17頭さえ敗者だが現実にはどの馬も通過点であってゴールではない
優勝したディープブリランテは素晴らしかった。称賛されるに相応しいダービー馬の誕生だ
ゼロスが注文をつけてハナを主張し、伏兵トーセンホマレボシが2番手は大方の予想通り
1000m通過59秒1-1600m通過1分35秒4。前半3F35秒6-後半3F36.1。死力を尽くした「2分23秒8」
ディープブリランテ(10番)は好スタートを決め抜群の行きっぷりで先行したが
鞍上の岩田騎手が上体を起こしたのはこの時1コーナーに入るまでの数秒だけで
あとはスムーズに折り合いがついた。2月の共同通信杯から課題とされてきた不安を解消した
3コーナーで前を行く2頭との差が一気に離れたがこのタメの時間が最後のひと踏ん張りを生んだ
蓋の役割は難しい(とくに有力馬でレースが大きければ大きいほど)が岩田騎手に迷いはなかった
直線に向くと後続を待つことなく自ら仕掛けたのは残り400m手前、馬の能力を信じ切った乗り方で
残り200mで先頭に立つと彼らしい体を目一杯使った激しいアクションで相棒を鼓舞し続けた
さすがに最後は脚も上がったが馬も懸命に応え外から追い上げたフェノーメノの追撃をハナ差凌いだ
無敗で東スポ杯2歳Sも制し主役候補に名乗りを上げながら3歳に入り折り合い難などもあり3連敗
距離の伸びるダービーでは気性、スタミナに課題を残したが究極のパフォーマンスで評価を覆した
人馬の執念を感じる見事な勝利だったと同時にダービーにおける「運」の存在にも気付かされた
昔から皐月賞は速い馬、ダービーは運のある馬、菊花賞は強い馬が勝つと言われてきたが
当然、最高に近い能力を持つ事、人事を尽くして天命を待つ状態であるのは絶対条件
そこから更に運を引き寄せるための努力が必要なのだ。どの陣営も必死に手繰り寄せたが
ディープブリランテと岩田康誠の過ごしたこの2週間は生半可ではないほど濃密だった
NHKマイルカップで制裁を受け騎乗停止になった後、すぐさま陣営に付きっきりを打診した
元は不注意が原因だけに皮肉や嫌み、雑音もあったとは思うが彼はピンチをチャンスに変えたのだ
それがあの引き上げてくる時の馬上での涙に集約されていたのだ。本当におめでとう
余談だが偶然にも現地で観戦していた席の少し後ろに矢作調教師とその関係者が座っていた
レース前に気付いてまさかとは思っていたがこんな場面に遭遇することもまずはないはずだ
レース後の歓喜、興奮は筆に尽くしがたいもの。周囲の祝福に応える矢作師が強く印象に残った
主観も入ってしまうが惜しくも及ばずの2着だったフェノーメノも最高の競馬をした
ディープブリランテの強さは認めるが実力差ではなく本当に運の差、勝敗を決めるスポーツの残酷さ
神様のちょっとしたいたずらだったと信じたい。作戦通りに中団より前目のポジションで
しっかり折り合ってエンジンを吹かしながら直線に入り、仕掛けのタイミングも完璧
何の不利もないスムーズで一番美しいレースをしたが青葉賞馬として初の頂点はならなかった
しかし歴代で最少のハナ差まで迫った。負けたが競馬史に残る確かな蹄跡を残して秋の逆転に備える
京都新聞杯レコード勝ちの勢いを駆ったトーセンホマレボシは先行策から脅威の粘り腰で3着
ゼロスに終始ついて回った結果であり、実はディープブリランテ以上に強い競馬だったかもしれない
ただこれは馬のスタミナや持久力を鞍上が感じ取った上での策であり最善、果敢な挑戦を讃えたい
全馬が思い通りにレースを進められるわけではない。それを今回出来なかったのが人気馬2頭だった
ワールドエース(4着)は折り合いはついたが福永騎手のコメントのようにじりじりとしか伸びず末脚不発
結局、能力は一番あるが絶対的存在ではないという位置付けのままに春シーズンを終えた
二冠制覇を目論んだゴールドシップ(5着)も常に劣勢を跳ね返すだけの総合力は現状なかった
今年からダービーに始まり、ダービーに終わるというサイクル通りもう新たな戦いがスタートする。