天皇賞（秋）

競馬と出会って随分の月日が経ったがデビュー以来これだけ１頭の馬を辛抱強く追い続けたのはフェノーメノが初めてかもしれない。圧倒的なスター性で魅了したディープインパクトや強烈な個性を放つオルフェーヴルとは異なる惹かれる何かがあったのだとは思うが正直今をもってもその答えにはたどり着かないし無理に脚色する必要もない。それが彼が纏う独特の魅力になるのだろう。

基本的に有力馬の減点方式、穴馬の加算方式で予想をおこなっているからどうしても強い馬に対する評価が手厳しくなりがちだが殊にフェノーメノに関してはひたすら本命を打ってきた。そしてただの一度も能力を疑ったことがない。それは過去のレース予想を見てもらえれば分かるはず。フェノーメノは無敗馬ではないしビワハヤヒデやダイワスカーレットのような連続連対馬でもないのにいつだって常に勝ちを念頭に置いてこの１年間戦ってきた。心底心酔して結果築けた信頼の強さだ。

そのフェノーメノはダービーのハナ差敗戦を生涯の糧に再び最高の栄誉に挑戦しようとしている。始動戦となったセントライト記念では猛暑の夏をうまく乗り越え悔しさをバネに成長し鍛錬されてきた姿があった。馬体重こそ変化は少なかったが馬格に幅が出て全体的にバランスよく映る素晴らしいシルエットでトモの筋力も上がった。春から気性的に大人しいタイプではあったがより闘志や気合いも増し雰囲気に風格が出た

そしてレースぶりも高まった期待を裏切らない圧巻のパフォーマンスだった。この時期の中山開催は高速馬場で内枠が有利だったが緑帽から発馬を五分に切るとスムーズに先団につけ向正面でペースが緩むとみるや順位を押し上げ３角では逃げ馬を射程圏に入れ、周囲の手が動き出した４角も抜群の手応えで回り直線は一気に先頭に立つ横綱相撲で後続を寄せ付けない着差以上の完勝だった。

前半5F60.2は馬場状態を考えれば速くないが後半5Fは11.8-11.7-11.5-11.4-11.8でサバイバルの持続力勝負。３角で３番手辺りまでを追走していた馬はペースが上がったところで苦しくなって脱落していっただけにこの勝利は強さ際立つかなり優秀な内容だ。これまでの経験や調教の成果を過不足なく発揮しレースで生かす学習能力に鞍上従順な性格、そして春にはなかった自在性が加わり隙のない王者に君臨する日がそう遠くないことを予感させた。

古馬との初対決がG1の大舞台。長い天皇賞の歴史で３歳馬で勝利したのは９６年バブルガムフェローと０２年シンボリクリスエスの２頭。古馬の壁は厚いとされてきたが調教技術の進歩や馬産全体の向上によりサラブレットの質が飛躍的に上がった。以前とは環境が大きく違うのだ。勝ち馬こそ０２年以来いないが３歳馬が３着以内に入ったケースは４回もあり出走数を考えるとこれこそ選ばれた精鋭といえる。

バブルガムフェロー毎日王冠(３着)や０６年３着のアドマイヤムーン(札幌記念１着)１０年２着ペルーサ(毎日王冠５着)は古馬との顔合わせを済ませていたが古馬と初対戦だったシンボリクリスエスとディープスカイにはある共通点が浮かぶ(※牝馬のダンスインザムードは除く)それは春の時点で東京2400mを強い内容で勝ち負けし前哨戦で同世代との力比べを完璧に済ませていたこと。

その意味ではダービーは６着に負けているが青葉賞を完勝してペルーサも該当する傾向だ。今年のダービーは史上３位の時計でありハナ差２着のフェノーメノも同じ時計で走っているしセントライト記念は神戸新聞杯に比べると一枚落ちるとも言われているが２着のスカイディグニティが菊花賞２着に来ており過去好走馬の条件は申し分なく満たす。前走後も計画に狂いなく調整され１週前、当週と気持ちよく四肢を伸ばす素晴らしい動きだった。

戸田調教師も中途半端な仕上げでは勝てないと目一杯を強調するように当然最高の状態で送り出してくる。今年は３歳世代のレベルが高いと言われてきたが中距離で一線級との勝負は初めてなだけに一概にその評判を鵜呑みには出来ないが「天高く馬肥ゆる秋」成長を含めた若駒の上積みは計り知れない。１年前の天皇賞(秋)当日、同じ2000mで産声を上げた府中の申し子が聖地で真の『怪物』となる。

前年２着のダークシャドウ東京コースは６戦５勝２着１回で無類の巧者。末脚の爆発力はメンバー随一で札幌記念で早目のレースを覚えたとはいえ今回は直線に賭ける手だろう。まずはこれが強敵。本格化した５歳ルーラーシップが双壁だが宝塚記念以来で少し太めが残ったのはいただけない。

シルポートが飛ばす展開をイメージすれば毎日王冠(２着)で長くいい脚を使ったジャスタウェイも上位の資格あり。エイシンフラッシュも高い元値と鞍上Ｍ．デムーロで一考の余地あり。カレンブラックヒルは外枠と距離に課題があり強気にはなれない。