ＪＣダート

『祇園精舎の鐘の声　諸行無常の響きあり　沙羅双樹の花の色　盛者必衰の理をあらわす　おごれる祇園精舎の鐘の声　諸行無常の響きあり　沙羅双樹の花の色　盛者必衰の理をあらわす　おごれる人も久しからず　ただ春の世の夢のごとし　たけき者も遂には滅びぬ　偏に風の前の塵に同じ』平家物語の冒頭を抜粋したものだ。

「永久不変なものはない」「お釈迦様が死を迎える時白くなって枯れた。花の色は栄えている者が必ず落ちるという意味を表している」「荒々しい強者もゆくゆくは滅びてしまう」「それは、いかにも風が吹くと飛んでいく塵と同じだ」平家が没落していく様子を詠っている。栄華は続かない。栄えていても落ちてゆく。

近３年のＪＣＤのタイトルを分け合ってきたトランセンドとエスポワールシチーのダート界二大重鎮にもいよいよ断が下される時が来た。今度こそ風雲急を告げる押し寄せる新興勢力の波に飲まれる。古くはテイエムオペラオー、メイショウドトウ。直近だとブエナビスタ。最後は本当に呆気なかった。師走の空気とはそういうものだ。

◎ソリタリーキングが世代交代の引導を渡す。今年に入ってダートでは重賞連続Ｖをはじめ５戦３勝。急速に力をつけてきた１頭だ。産経大阪杯大敗から臨んだブリリアントＳは終始楽な手応えで外目を悠々と追走し直線では鞍上が後続を振り返って追い出しを開始する余裕ぶりで直線独走。オープン特別では完全に格が違った。

初の重賞タイトルを掴んだ東海Ｓは内枠を利してスタート後ポジションを取りにいって道中はインの好位に収まってじっと我慢。周囲が動き始めた３角過ぎでも慌てずに仕掛けを待って末脚を温存し直線を向くと馬群を割って一気に弾けた。ニホンピロアワーズとの叩き合いは絶対に譲らぬ逞しい勝負根性をみた。

日本テレビ盃も断然人気に応えて勝利。鞍上内田博幸のＧＯサインに応えてクビをグッと下げて伸びてくる姿が印象的だった。本格化を思わせる活躍に満を持してビッグタイトル戦線に舵をとった前走のＪＢＣクラシックは将来への展望が大きく開けた矢先だっただけに不満が残る内容だったかもしれない。

早めに先頭に並びかける積極的なレースを展開したが最終コーナーでは反応が鈍くなり圧勝したワンダーアキュートらに完敗の４着。そこから大幅に相手強化される今回への見通しはお世辞にも良かったとは言えないが慣れない地方の深い砂でコーナーを何度も回り消耗戦に持ち込んでしまった事が敗因として占める割り合いは少なくないはず。

一線級とまともに手合わせしたのも実質初めてだったし厳しい競馬を経験したのは後々実を結んでくる。未完成だった昨年でも勝負どころではついていけなかったが直線はしぶとく盛り返して２着ワンダーアキュートとは０秒３差(８着)当時より確実に進化しているのにオッズがほぼ同じとは嘆かわしいが不当な評価は高配当を運ぶ。

ズブくなったトランセンドやその出方を見るエスポワールシチー次第だが６連勝中のローマンレジェンド(Ｍ．デムーロ)が強気に仕掛けていけば後半は速いラップが続く持久力勝負。差す脚のある馬にとっては好都合だ。馬群がバラける展開になれば大勢を把握しながらスムーズに乗れる外枠の方がかえってプラスに働くはず。ソリタリーキング自体８勝中４勝を二桁番で挙げている。

陣営が「前走は数字以上に馬体が太かった」というように状態面でも上積みを見込める。坂路での追い切りはラストが極端に遅く見栄えしないが普段から実戦派だけに心配はない。むしろ全体時計を55.5でまとめているのは褒められる。兄は統一Ｇ１を９勝した偉大なダート王ヴァーミリアン。ソリタリーキングにも王位を継承する品格は備わっている。

今年最強の上がり馬ローマンレジェンドにはとにかく“負けない強さ”がある。エスポワールシチーと一騎打ちになったエルムＳも、直線で前が壁になったみやこＳも最後は誰よりも早くゴール板を駆け抜けていた。突出したスピードとスタミナをフルに生かせるのは展開に頼らずとも自ら勝負を決めにいける自在性。誤った力の使い方さえしなければこの馬は強い。

ＪＢＣクラシックを圧勝して時代の到来を予感させたワンダーアキュートも当然上位争いになる。３角からの肉弾戦をやり過ごし直線は外に進路をとった和田騎手の好判断も光ったが馬の地力強化が著しい。落馬寸前だった昨年２着以上も十分ある。発馬五分で前受けなら更に怖いイジゲン、血統的に大物食いがあるニホンピロアワーズ、みやこＳ大敗で評価を落としているハタノヴァンクールも差し比べなら面白い。